現代的なスローライフのバイブル、映画『リトル・フォレスト 春・夏/秋・冬』(2014/15年)

映画『リトル・フォレスト』

 

コミックは五十嵐大介さんによる渋い名作を映画化。
主演は、『あまちゃん』でのブレーク直後の橋本愛。
東北の小さな集落で、ほぼ自給自足の生活を送る、いち子の一年を淡々と綴った4部作で、現代的な田舎暮らしのバイブルになった作品です。
それだけでなく、料理の美味しさをとは何かを考える上では必見の
映画の一つでしょう。

 

映画『リトル・フォレスト』をサブスクで観▽
『リトル・フォレスト 夏・秋』

『リトル・フォレスト 冬・春』

 

映画は、現代の“料理歳時記”としての見どころ満載

映画だったり、コミックだったり、定期的に観直す作品。

ストーリーは、あるようでない、ないようであるというテイストなので、むしろレシピ本のように楽しんでいるというのが正直なところ。

ですが、観直すたびに「やっぱりこれは映画だな」と思わせてくれる、味わい深さが真骨頂だと捉えています。

美味しさ満載、劇中に出てくる料理を全部食べたい

舞台は、東北の小さな集落・小森に住むいち子は、田畑を耕し自給自足に近い生活をしています。

集落で暮らす苦しさもきちんと描かれているけども、全体的に淡々としたタッチが心地よい作品。

田舎暮らしとなると、良くも悪くも『北の国から』のようなハードな生活(だからこそ感動があるのですが)も孕んでいるはずなのですが、この『リトル・フォレスト』から感じる心地よさは、料理を軸に描かれる構成から来ているように思えます。

美味しいものは、人を笑顔にさせるもの。それが一瞬のことだったとしても。

出てくる料理はどれも美味しそうで、自分でもつくってみたくなるものばかり。

ある意味で、贅沢すぎる料理に、よだれが止まりません。

庭のトマトで採れたトマトを、さっとパスタソースにしてものなんて、美味しいに決まっています。


(c)「リトル・フォレスト」製作委員会

 

さらにフードマイレージの観点で言えば、20~30mです。

当サイトで通常紹介しているレストランが出す料理とこういった料理は、ベクトルは違う部分もあると思いますが、その価値は変わらないと信じています。

そういった作品の魅力は、原作と映画の両方が持っているものだと思います。

原作に加わった映画版ならでは魅力とは

映画版の料理監修は、フードディレクターの野村友里(『e-trip』オーナー)がやっているので、映画を先に観た私は、出てくる料理は野村さんのテイストが強いのかな?と思い込んでいました。

その後、原作を読んでみると、料理もそうですが、セリフまでほぼ原作通りであることにびっくり。

ただ、映画版は原作にはなかった魅力が追加されていて、次の2つが大きな要素だと思います。

  1. 橋本愛の透明感
  2. 春夏秋冬に整理し直した構成

 

1. 主演・橋本愛の透明感

俳優でもミュージシャンでも表現に関わる者は、初期のどこかでブレークスルーとなる代表作となる作品があるものです。

世間での認知度としては、NHKの朝の連ドラ『あまちゃん』だったかもしれませんが、主演のいち子役を演じた橋本愛にとってはそんな作品にあたると思います。

たぶん彼女にとって、これからどんな大女優に成長していこうが、一生に一度しかできなかった作品になると思います。

監督は、いち子役に「何かと必死に戦っているとの感じがした」という理由で、当初より橋本愛を考えていたとパンフレットで明かしていますが、言い得て妙です。

劇中でいち子は、ほとんど農作業をして、料理をして、食べているだけなのだけれども、それでも何かを表現するというのは、演技という技だけではできないのですから。

 

2. 春夏秋冬に整理した構成の妙

この映画は、『夏』『秋』『冬』『春』の4部作として製作されています(実際の上映やDVDなどでは、夏編と秋編、冬編と春編がセット)。

原作はランダムな1話読み切りで、その小気味よさも好きなのですが、四季を通した構成にし直したことによって、非常に伝わりやすくなっていると思います。

 

スローライフ版・四季の歳時記

抑揚のあるストーリーがない分、雪が解けると、こんなものを食べるんだ? 小松菜や水菜、タアツァイなどの青菜は時期によってこうやって使い分けるのかぁ。野菜の保存は、そうやってるんだ?とか。

私の場合は、東京の生活の中でつい忘れてしまう季節と食の関係を、改めて見つめ直すことによって、断片が一つの糸のように繋がるのです。

「旬がどうの」という文章をたくさん書いているフードライターという仕事柄、実際の生活には反映できなかったとしても、季節感の意識だけはしておきたいと、机の傍らに置いていたのは、今まではこれでした。



料理研究家・辰巳浜子さんの名著『料理歳時記 改版』 (中公文庫) というレシピ・エッセイ集です。

現在では、私のバイブルに、この『リトル・フォレスト』も加わっています。

 

「どっちでもいい」から「どっちもいい」感覚へ

書いている私の周囲でもそうですが、こういうエコロジカルな領域に踏み込んだライフスタイルを描いた作品やその考えには、多かれ少なかれ賛否両論が出てきます。

その人の価値観次第、何を幸福とするか次第なので、どっちでもいいと思っています。

例えば、田舎暮らしに関しても、まったく興味ない人からすれば、自分の都市生活を否定されているように捉えられるのか、アレルギー反応が返ってくることが多いものです。

一方で、田舎暮らしはそんなに甘いものじゃないという、田舎の人もいます。

どちらにしても、多くの場合は、お金という価値観を幸福の基準にすると、田舎というのは不利なのは確かだと思います。

「生きるために、食べる。食べるために、つくる」というのは、この『リトル・フォレスト』映画版のキャッチコピーですが、食べること、つくることが、お金をかせぐことより先に来る人には、まったく逆のスタンスになると思います。

自分のためにやる農業は、これほど楽しいものはないと、よく聞きます。

でも、農業で生活しようとするなら、一気に厳しいものへと変わります。

 

私自身は、田舎暮らし、この作品のライフスタイルのどちらに対しても肯定派ですが、それはやはり「美味しい」からです。

東京のミシュラン店でフレンチを食べるのと、山間の登山小屋で流水で冷やされた完熟・採れたてのトマトを食べるのと、どちらが美味しいか、どちらに価値があるかなんて、究極の選択はしたくないんです。

結局は、どちらもあってほしいという気持ちにたどり着きます。

で、どちらも存在するためには、どちらの生活を送る人もいないと成立しません。

ならば、自分と違う生き方を否定するのではなく、どちらにもリスペクトできる世の中になればいいなぁと改めて思います。

『リトル・フォレスト』のいち子はぐずぐず悩みながら、スパッと小森を後にします。

「街でもきちんと自分の居場所をつくれるようにならないと。その上で選ばないと小森に失礼なような気がする」と。

結局は小森を選ぶわけですが、私自身は、この作品から田舎も街も「どっちもいい」と言ってもいいんだ?と背中を押してもらったような気がします。

その揺らぎを含めて、現代的なスローライフの姿を映した作品だと思います。

 

映像配信サービスのサブスクリプションで『リトル・フォレスト』を観るには?

「U-NEXT」で見放題に入っています。

月額料金は必要ですが、邦画やドラマをよく見る方にはおススメです。

まだ入会していない方なら、無料期間(31日)の間にサクッと観てしまうのも手だと思います。

 

ほかにも「Prime Video」「Netflix」でも、月額料金で視聴できます。

 

韓国版『リトル・フォレスト』

この記事を書くために、情報の整理をしていて気づいたのですが、韓国でリメイク版が製作されていたんですね。

近々観る予定なので、追って記事を追加します。

 

 

映画『リトル・フォレスト』クレジット

監督/脚本:森淳一
原作:五十嵐大介
製作:守屋圭一郎、石田聡子、河合勇人(企画)
製作総指揮:高橋敏弘

出演者

橋本愛/三浦貴大
松岡茉優
温水洋一
桐島かれん

スタッフ

フードディレクション – eatrip 野村友里、山本有紀子
音楽:宮内優里
主題歌 FLOWER FLOWER「夏」「秋」「冬」「春」(gr8!records)
撮影:小野寺幸浩
編集:瀧田隆一
制作会社:ロボット
製作会社:「リトル・フォレスト」製作委員会
配給:松竹メディア事業部

公開

夏・秋編 – 2014年8月30日
冬・春編 – 2015年2月14日

上映時間

夏・秋編 – 111分(夏56分53秒、秋54分44秒[2])
冬・春編 – 120分(冬62分28秒、春58分04秒[3])

 

 

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