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「東三河の旬を、お皿にのせて」ということに焦点をあてたコンテンポラリー・フレンチ。
ずっと気になっていた、そんなコンセプトのレストランが豊橋にあります。
中堅都市で、地域の食材の魅力を生かしながら、ナチュラルかつ現代的な表現を追求。
開疎な時代におけるレストランのあり方を、いち早く実践し始めた新鋭を訪ねます。
平均予算:ランチ/ディナー 15,000~20,000円/「ゴ・エ・ミヨ 2021」2トック
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店の特徴
豊橋のガストロノミー
店があるのは、そう、豊橋なんです。
愛知県で生まれ育った私でも、齢五十に近づいている今の今まで、足を踏み入れたことがなかった街。
以前は、愛知県第2の都市だというイメージが強かったのですが、いわゆる「平成の合併」の際に他都市と併合しなかったため、現在、人口では豊田、岡崎、一宮に次いで第5の都市になっているそう。
社会の勉強のような話から始めてしまいましたが、「デスティネーションレストラン」を積極的に追っている私のような身からすると、土地の成り立ちは重要なのです。
旅情をそそる辺境の地に、非常にクリエイティブなレストランがあるなら、まだわかりやすいかもしれませんが、豊橋のような中堅都市で、ガストロノミックなレストランを成立させるのは、意外と難しいのか、かなり稀のように思えます。
なぜそんなことができるのか、何がそうさせるのか。
そんな期待を胸に、雑居ビルの2階へと階段を上っていったのです。
約12皿のコースに、日本ワイン中心のペアリング
メニューは、おまかせコース「saison」のみの展開。
料理に合わせたワインペアリングは、6杯の展開ですが、1杯あたり120ml、60mlなど量を選べるシステム。
意外や、他ではなかなか見ないやり方ですが、量は飲めないけれども、いろいろ飲みたい私などには、すごく気の利いたサービスに思えます。
ちなみに、このお店のワインストックは、日本ワインを中心に揃えていることで知られています。
訊けば、「コネなどなかったので」コツコツと1本1本集めていったそうで、その心意気が爽快です。
ワインペアリングは、シャンパーニュからスタート。
和栗
アミューズ1品目は、新城で採れる栗をタルト仕立てで。
胡瓜
アミューズ2品目は、新城で栽培される有機の胡瓜。
発酵したクミンシードが、どことなくエスニックテイスト。
落花生
アミューズ3品目は、豊川の落花生。
軽く火を通した生落花生をリコッタチーズなとともに最中仕立てで。
発酵ラズベリー 戻り鰹
戻り鰹を、豊川産のラズベリーのソースで。
ラヂッシュやハーブが添えられています。
紫蘇と発酵ブラックベリー ボタン海老
紅心大根などに下に、ボタン海老。
ソースは、豊橋の名産である紫蘇に、発酵ブラックベリーを加えたもの。
前菜に合わせて注がれたのは、長野の「ファンキー・シャトー」のサンジョベーゼのロゼ。
大浦牛蒡 備中蓮根
大浦牛蒡の茶碗蒸し。
備中蓮根のグリルの存在感も大。
山形のココ・ファーム・ワイナリーによる白ワイン「 風のエチュード」。
コールラビ 蕪
コールラビのグリル。
ハマグリのジュを使った泡ソースに、一番下に蕪のピューレが潜んでいます。
ブルゴーニのシャルドネ。
北河さんの有機長茄子 アコウ
駿河湾で獲れたアコウを炭火焼き、付け合わせのナス素揚げに、生のモロヘイヤを添えて。
夏のフグとも呼ばれるアコウですが、良いだしが出ます。
そのだしとパセリオイルのソースが利いているのですが、身のもちもち感も独特。刺身でしか食べたことがなかったのです、この食感は発見でした。
北海道にある「ヤマザキワイナリー」のピノ・ノワール。
東三河の季節野菜 みかわ牛
肉のメインは、みかわ牛のサーロインのグリル。
キタアカリをソース的に。使わせには、さつまいも、わさび菜、にんじん、しいたけ、万願寺唐辛子と盛りだくさん。
肉に合わせて、ボルドーのメドック。
比較的軽めで、この店のテイストには合っています。
次郎柿
口直しの次郎柿のスライスとシャーベット。
キンモクセイの香りを付けたシロップをかけています。
無花果、渋皮煮、米粉のマドレーヌ
小菓子的に3品。
手前の無花果は、ミルクのムースに覆われて。
豊川産の栗は渋皮煮に。
焼きたての米粉のマドレーヌは、樹皮に芳香がある黒文字の香りとともに。
食後のお茶
コーヒー、エスプレッソ、ハーブティーから、いつものようにエスプレッソをセレクト。
まとめ
東三河の食材ということでしたが、この地域の作物が全国的に見てずば抜けたクオリティを誇っているわけではないと思います。
むしろ、きちんと選べば、良質な食材があるということで、その活かし方が、美味しさを紡ぎだしていることは明らかです。
生産者との近さ、各食材との付き合いの長さなど、要は理解度が高ければ、クオリティは出せるという格好の例のように思えます。
そのセンスはどこから来たのかと、いろいろ訊いてみると、シェフは仙台の『ナクレ』や、現在は福岡にある『Sola』のパリ時代で研鑽を積んだと言います。
なるほど。ざっくり言うなら、パリの『アストランス』の系譜で、かつナチュラルなフレンチというわけ。
『アストランス』に関しては、ナチュラルなのだけれども、そのナチュラルさが、都会的なセンスであることが独特だと感じていました。
この『アル』もアプローチこそ多少違えど、そういったクリエイティビティの本質は引き継がれているのかもしれません。
となってくると、40万人弱の都市でも、全然成立できるのだ、と。街にこういう店が一つあるというのは、非常に幸せなことだと実感できたコースでした。
人口50万都市の可能性
料理の話はここまでですが、冒頭に触れた都市とレストランの話を最後に付け足しておきます。
例えば、ざっくりと50万人の人口として、ヨーロッパの都市をいくつか挙げていくと下のようになります。
フランス:マルセイユ、リヨン
イタリア:ジェノバ、トリノ、ナポリ、パレルモ
スペイン:サラゴサ、セビリア、バレンシア
ポルトガル;リスボン
ギリシャ:アテネ
オランダ:アムステルダム、ロッテルダム
ドイツ:シュトゥットガルト、デュッセルドルフ、ドルトムント、ドレスデン、ニュルンベルク、フランクフルト、ブレーメン
イギリス:グラスゴー、マンチェスター、ブリストル、リヴァプール
スウェーデン:ストックホルム
ノルウェー:オスロ
フィンランド:ヘルシンキ
ヨーロッパの中堅国では、首都クラスの都市が並びます。
大国の首都クラスになると100万都市ばかりですが、食文化でいえば、フランスのリヨンやマルセイユ、イタリアのジェノバ、トリノ(ピエモンテ)、ナポリ、パレルモ(シチリア島)など、美食でも知られ、料理のカテゴリーとしても通用する都市が存在しているわけです。
社会学でもよく言われるのが、50万人という規模は、都市として成立する機能がもっともコンパクトに詰まった人口ということ。
国としての総人口を含め、アジアとヨーロッパに文化の違いなどはあるので一概に比較できるわけではないことも頭の片隅に入れつつも、そのもっともコンパクトな都市機能のなかに、クリエイティブなレストランも含まれるかどうか。
私自身は、そんなことが気になっていて、もちろんあった方がいいに決まっている、それぞれがオリジナリティをがんがん追求していってくれれば、もっともっと食事が楽しくなると思っているわけです。
都市型でも、その写し鏡のリゾート型でもなく、日本各地の“フツーの”都市で、大都市の最先端をいくレストランにも比類する満足感を得られるレストランは、少しずつ増えてはいますが、まだまだ日本地図をを埋め尽くすには至っていないと思います。
何が言いたかったかというと、この『アル』は先駆者の一つと言えること。
今後とも注目していきたい存在です。
メニュー
【コース】
「saison」¥11,000/12品前後
移りゆく東三河の季節を味わうコース
※ランチ、ディナーともに利用可
※別途消費税、サービス料5%
*メニュー・料金はあくまで参考になります。季節や食材の入荷状況によって変わることを前提にご覧ください。
予約方法
電話・ネット予約にて。WEBの即時予約は、TORETAから受け付けています。
店の地図・アクセス
「豊橋駅」より徒歩6分
『アル』店舗情報
営業時間:ランチ 12:00~15:00(L.O.12:30)、ディナー 18:00~23:00(L.O.19:30)
定休日:日曜、不定休
電話番号:0532-54-5518
住所:〒440-0881 愛知県豊橋市広小路2丁目28 吉田ビル2F
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