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ミシュラン和歌山2022で、ビブグルマンとグリーンスターを獲得した蕎麦店。
熊野本宮の先の山間にポツンと佇む話題の蕎麦店は、かなり変わったスタンスを持つお店でした。
平均予算:昼=1,000-4,500円/「ミシュラン和歌山 2022」ビブグルマン&グリーンスター掲載
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店の特徴
一筋縄ではいかない蕎麦店です。
味やスタンスなどは、後ほど述べますが、まずは、その場所。
熊野本宮から車で10分強、「伏拝王子跡」近くということになるので、なんだかアクセスは良さそうに思えたのですが。
実際に行ってみると、こんなところに蕎麦屋さんがあるのか、しかもミシュラン認定の蕎麦屋さんが?と不安になってくる道のりです。
とはいえ、Googleマップのナビ通りに行ったら、店はありました。
後から気づいたのですが、お店のHPにも丁寧なアクセスが説明されていました。
田舎感満載。
店名にも付いている“山伏”が、本当に住んでいそうな佇まいです。
訪れたときは、店舗改装中。
晴れた、快適な日には中庭でも食べられるようにするとのこと。
20度を超す暑い日だったので、パス。
暫定的に客間としている古民家の2階に案内してもらいます。
「山伏そば」とは?
店名にもなっている「山伏そば」とはなんぞや?ということが気になっていました。
何か長い伝統があるようにも勘違いしそうなネーミングですが、実は、この店のオリジナルだったことが判明。
山伏の修行をしていたこともあるオーナーが、長野県の伊那周辺にある「行者そば」にインスピレーションを受け名付けたそう。
麺は、自家製のそば粉などを使った十割。
南信の行者蕎麦は、大根おろしを入れ、みそを溶いたつゆでいただくのですが、ここでは、最初はそのまま、次に塩、そして大根のおろし汁、その汁に自家製味噌をといたものにつけて、と4段活用。
と、しれっと書いてみましたが、そう、かえしを使っていないのです。
かえしを使っていないことも含め、教科書的に洗練された蕎麦かと言えば、少し首をかしげてしまいます。
ふしぎな印象さえ感じてしまうのですが、これはこれでアリだと納得しました。
十割の蕎麦ですが、そばの香りを前面に出すというよりは、むしろ余計な要素を入れたくなかったから、十割になったという印象を受けます。
とんがったスタンスなのに、味は優しいのが、ふしぎなところです。
ただ、本当に蕎麦を生かしていないのであれば、たぶん大根おろし汁と味噌だけでは、旨いとは思えなかったでしょう。
蕎麦のポテンシャルが奥底に流れているからこそ、変わり種でもすんなりと受け入れられたような気がします。
聞けば、オーナーは生まれついてのベジタリアン(魚は少しOK)で、女将は小麦粉アレルギーだとか。
となると、このやり方しかなかいかもしれません。
理にかなっているとも言えます。
そば膳
さて、別日に、「そば膳」というセットメニューをオーダー。
漬物も優しい味わいです。
季節の野菜の知るものと自家製蕎麦粉のそばがきが出てきます。
そばがきは、そのまま食べたあとに、汁に入れると、「だご汁」になります。
「だご汁」とは、「だんご汁」がなまったもので、郷土料理としては九州地方のものが有名。
一般的には、小麦粉を練ったものを入れますが、ここでは、そばがきを使うという嗜好です。
次に天ぷらの盛り合わせ。
ベジタリアンらしく、野菜が中心です。
そして、小麦粉を使わずに、米粉と蕎麦粉のブレンドであげているそうなので、カラッと仕上がっています。
通常蕎麦は、山伏そばやもりそばなどから選びますが、先日いただいたので、黒板メニューにあった「牡蠣そば」にしてもらいました(+900円)。
一見、素朴な料理に見えながら、これまた、ふしぎさもあわせ持っている汁蕎麦でした。
だしが優しいのです。
最近は一口食べたときのインパクト出すために、高級な和食でもだしが強くなっている傾向を感じるのですが、それとは逆方向。
オーナーのベジタリアン的な味覚によるのかもしれません。
このあたりの味付けも好みが分かれるところでしょうが、現在において、素材の生かし方とは何かを考えさせられるということでもあります。
林業と農業をやりたくて、蕎麦打ちにたどり着くということ
ある日、ほかの客がいなかった食後に、1時間くらい話し込んだのですが、このオーナー、少し変わった経歴の持ち主だったので、紹介したいと思います。
その考え方が、やはり料理に表れていると思いますので。
もともとは東京や愛知などで映像関係の仕事をしていたのですが、林業と農業をやりたいと和歌山へ移住。
就職した林業組合が、ここ本宮町の山間だったという縁だそうです。
そこで、北側に面する十津川で、山林の焼き畑農業で蕎麦を栽培する伝統に出会います。
その後の経緯は端折りますが、蕎麦屋をやりたかったというより、蕎麦を栽培したいという気持ちから始まり、その延長線上に蕎麦打ちがあったという変わり種とも言えます。
そして、林業組合の社宅の横にあった古民家と土地を買い取り、店をオープンしたのが、6年前。
それまで飲食業の経験がまったくなかったというから、潔さを感じます。
蕎麦打ちの基本は3か月ほどで修め、2~3年で自分の打ちたい蕎麦のかたちが見えてきたということです。
その方向性は、大都市で名手とうたわれる蕎麦打ちとは違っています。
蕎麦打ちだけであれば、天才的な職人もいるでしょう。
そういった料理界のヒエラルキーに対する憧れはほとんどないと言います。
たとえば、こういうことです。
SDGsやエコ、地方創生の視点から6次産業という言葉が一般的になってきました。
要は、原料から製品まで一気通貫で仕上げていくということですが、飲食店を考えたとき、食材をつくる生産者、それを加工(=調理)する料理人、それを客に出すサービスマンと分業化されているのがふつうです。
分業でそれぞれの役割を高いレベルでこなせるなら、いい店になるでしょう。
けれども、それが同等の関係になるのは、非常に稀です。
分業にしてしまうと、否が応でも、買う人と買ってもらう人、雇う人と雇われる人という資本主義の力関係が顔を出してしまうのです。
もともとは林業や農業を志していたオーナーのこと、その工程を全部、手の届く範囲でやってしまうということに、意味を感じていると言います。
料理人としてだけ見ると足りないところがあったとしても、結局は総合力なのです。
頼らないで自立して生きる、それは現在では示唆に富んだスタンスのように思えます。
メニュー
【土・日曜】
「もりそば」900円
「山伏そば」1,200円
「二種もりそば」1,200円
「自家栽培そばがき」900円
「だご汁」大900円、小600円
「そば膳」2,200円
※その他黒板メニューあり
【平日】
「そば膳」2,200円/3,300円/4,400円(予約のみ)
*メニュー・料金はあくまで参考になります。季節や食材の入荷状況によって変わることを前提にご覧ください。
予約方法
平日は要予約。
店の地図・アクセス
駐車場
駐車場は店の手前、徒歩2分くらいの場所にあり。
案内に沿って、左折。
物置小屋の脇が店専用駐車場です。
『山伏そば 拝庵(おがみあん)』店舗情報
営業時間:<土日祝>11:00~15:00 <平日>要予約
定休日:不定休
電話番号:0735-30-0435
住所:和歌山県田辺市本宮町伏拝 170
オフィシャルwebはこちら
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