世界中の美食を食べつくすフーディーズの実態を追った『99分,世界美味めぐり(原題:Foodies)』(2014年)

映画『99分,世界美味めぐり(原題:Foodies)』に世界中の美食を食べつくすフーディーズの実態を観る|Foodies Asia

 

日本で「フーディー」という言葉が知られるきっかけになったのは、この映画のおかげでしょう。
世界各地の名店に地力で足を運ぶ美食ブロガー、フーディー5名を追ったドキュメンタリー『99分,世界美味めぐり(原題:Foodies)』をレビュー。
本作に登場するアジアの名店の解説付き。

映画『99分,世界美味めぐり』作品概要

宣伝コピー

<食べる>を極める美食家たち(フーディーズ)。三つ星レストランから秘境の味覚、食の最先端から伝統料理までー至高の美味めぐりの旅がはじまる!
★世界中の星付きレストランから知る人ぞ知る秘境の美味まで、美食に人生を賭けるフーディーズたちの情熱をクールに描く!
★登場するのは実在する世界中のレストラン全29店舗!  有名シェフも多数登場、キッチンの裏側も垣間見られるグルメ・エンタテイメント!

予告編動画

 

作品レビュー

「あれ、まだ2年か?」と、久々にこの『99分、世界美味めぐり』を観ていたら感慨にふけってしまいました。これを観て、へえ、世界の最先端のレストランはこんなことになってんるだ?と刺激を受けたものです。その日本での公開は2016年1月の公開。もともとは2014年のスウェーデン作品で、撮影された時期は2012~2013年です。

やはり、この‘10年代前半が世界のグルメシーンにおける一つの転換点だと思うので、その断片を切り取ったドキュメンタリーとしては貴重な作品でしょう。

転換点というのは、料理人サイドにも、ユーザーサイドにも、当てはまります。当然この2つは相互に影響しあっていますので、卵が先か鶏が先かみたいな捉え方になりますが、どちらから見えても、それ以前とは風景がまったく異なっていたと思います。

料理側としては、やはり『エル・ブジ』ですね。2011年7月に閉店しますが、むしろ彼らが発見したクリエイションが世界に広まっていった、つまり本当の意味で世界の料理シーンを変えたのは、この’10年代のことです。

そして、ユーザー側の変化は、インターネットの普及でしょう。2012年ごろと言えば、ブログ全盛期。どのジャンルでも、人気のブロガーが大きな影響力を持っていた時期です。レストランを選ぶにも、新聞や雑誌、テレビなどの既存メディアではなく、ネットからの情報が力を持ち始めます。

さらにラディカルだったのは、それまでは“アマチュア”とされる人びとが自由に発信できるようになったのです。

この『99分、世界美味めぐり』は、後者の物語。邦題からは料理映画と間違えそうですが、ちょっと特殊な料理を食べる人々を追ったドキュメンタリーです(なのでトップの画像は、スェーデン版のポスターにしてみました)。


 

ここが美味しそう!

ミシュラン三ツ星の定義は「旅行してでも食べる価値がある」こと。

その言葉通りに世界中を旅して星付きレストランを巡るフーディーズ。そのなかでも、当時、料理の情報をSNSを通じて発信する美食ブロガーとして目ぼしい存在だった5人をクローズアップしています。

登場するフーディーたち

アンディ・ヘイラー(大手石油会社の元重役)
Webサイト:http://www.andyhayler.com/
パーム・パイタヤワット(バンコクの金鉱会社の御曹司)
Webサイト:http://theskinnybib.com/
スティーヴ・プロトニキ(レコードレーベルの元オーナー)
Webサイト:http://www.opinionatedaboutdining.com/
アイステ・ミセビチューテ(リトアニア出身で元スーパーモデル)
Webサイト:http://www.luxeat.com/
ケイティ・ケイコ・タム(香港生まれのOL)
Webサイト:http://k-luxedining.com/

ただ、調べてみたら、webサイトとしてそんなにトラフィックは稼いでないんですよね。あくまで少し人気のブロガーレベルである2万~10万といったところ。それでも、影響力を持つというところに、ある種の時代性を感じます。

自腹で店に行くという行動にウソはない

よくブロガーに対しての批判に「アマチュアの意見じゃん」と言われることがありました。一方で、プロに関しても明確な定義はありません。あるシェフが劇中でも語っていますが、料理について書くのに、調理師免許がいるわけでも管理栄養士の免許がいるわけでもないんです。

となると、どうしても行きたくて、自腹を切ってでも行動するアマチュアと、出版元や店から仕事として多かれ少なかれ便宜が図られるプロと、どちらの意見が信憑性があるかと言えば、答えに窮します。

要は、プロというサロンのような文化の中で、世に流される評価や情報が取捨選択されていたのが、ネットの普及とともに、そこで扱いきれない店の存在や意見が、一気に流出したのです。

アマチュアのブログには的はずれなものや、同じユーザーの立場からも読むに耐えない陳腐なものも多くありました。この作品を観ていても、鼻につくシーンも少なからずあります。

でも、純粋に感心したのは、彼らが自分の足を使って、自分のお財布で食べ歩いていることです。書いていること、言っていることは別として、この行動にウソはないだろうな、と。

それぞれのフーディーズのキャラクターにも注目

いろいろなキャラ出てくるので、共感できるフーディーも、嫌悪感を抱くフーディーもいるでしょうが、私自身のお気に入りは、スティーブ。

彼はもともとRUN DMCなどを輩出したレコードレーベルのオーナーだっただけあって、現在関わっている料理に関しても、アートとして扱いたいとう熱意があります。

「美食とは何かを人々はわかっていない。食べることを楽しんでいるだけで、知的な楽しみ方はできてないんだ。料理は、理論的に批評できると思われてないから、芸術として認めてもらえない」

私も同感です。すべての飲食店がこんなふうになったら困りますが、芸術的なレストランが生まれ、その料理を知的に楽しむこともアリだと思います。

もう一人は、香港のケイティさん。普通のOLで、コツコツ貯金した資金を食べ歩きにあてているところに共感できます。「破産しないように注意している」というところが微笑ましいですね。

登場するアジアの名店

資料によれば、全29店がこの作品に登場しますが、アジアのレストランは下記の9店(星はミシュランガイドの評価)。

日本:『菊乃井』(★★★)、『鮨さいとう』(★★★)、『神保町 傳』(★★)、『都寿司』

日本料理中心です。京都の『菊乃井』本店、『鮨さいとう』は、この当時から確立した存在ですね。まだ神保町にあった(現在は外苑前)『傅』もちらっと出ています。この時期に世界レベルの有名店になることは、多くの人は想像だにしていなかったと思います。

香港:『ボー・イノベーション』(★★★)、『アンバー』(★★)、『タ・パントリー』

良くも悪くも『ボー・イノベーション』のアルヴィン・シェフが強烈です。これを観て、興味を持った人も嫌いになった人もいるのでしょうが、本人としては、誤解されるくらいが本望なのでしょう。

 

『アンバー』のリチャード・シェフもいい味を出しています。「最近、料理がすごく注目されてるが、過大評価だと思う。厨房で人の命を救ってるわけじゃない」なんて、言っちゃっていいのかな?とこちらが心配になりますが、この自由な発言が許されるのが、香港の良さだと思います。

 

コメントのみで、シェフのエステルさんが出演している『タ・パントリー』は、マンションの一室の「私房菜」として話題を呼び、実店舗に拡大した隠れ家レストラン。「上海」「香港」「日本」「ヌーベルアメリカン」「ベトナム」「韓国」などの複数のコースメニューから、予約の際に1つを選ぶ独特なスタイル。

マカオ:『譽瓏軒(ジェード・ドラゴン)』(★★)

「マカオはお金を中心にして回っています。香港から船で渡るアジア最大の“罪の街”で―」というナレーションで紹介されるこの店は、店内も金ピカ。この映画を観たせいで、行くのを躊躇ってます。料理には興味があるのですが、ゴージャスすぎて……。

杭州:『龍井草堂』

タイのパームくんが、はぁはぁ言いながら、「これまで食べてきたものはなんだったんだろう」とのたまった店。それほどまでではないですが、素晴らしい店であることには代わりはないです。

 

とくに、環境問題が深刻で、食品偽装などの問題も絶えなかった時期の中国で、いち早く「自然の中に身をおくべき」というスタンスを実践したことには、大きな価値があるでしょう。

ただ、これは、どの国、文化圏でもできるし、必要なことだと思うんです。日本各地にもあるでしょう。それらを、ただの田舎料理ではなく、きちんと現代に息づくファインダイニングとして評価すべきだと思います。

その意味で、ベトナム・サパの『ヒル・ステーション』などと食後感が近かった印象ですが、もっと各地を探さねば。

 

 

『99分,世界美味めぐり』が視聴可能な動画配信サービス

現在、『99分,世界美味めぐり』を観ることができる動画配信サービスは、AMAZON PRIME VIDEO、UNEXTなど。

どちらも月額さえ払えば、見放題サービスになっています

まだ、登録していない方は、UNEXTの1か月無料の期間中にサクッと観てしまいましょう。

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クレジット

監督: トーマス・ジャクソン/シャーロット・ランデリウス/ヘンリック・ストッカレ
製作年:2014年/製作国:スウェーデン© 2014 B REEL. All Rights Reserved.
カラー/上映時間99分

 

 



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