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佐久平から蓼科方面に車を走らせること約30分、田んぼの中にある一軒屋。
蕎麦の名店として名高い『職人館』ですが、蕎麦だけでは語り尽くせない、郷土料理の現在の姿を感じました。
蕎麦だけではもったいない、新しき郷土料理の名店
私は、少し勘違いしていたみたいです。
行く前は、『職人館』を蕎麦の名店だと思っていました。
でも、実際に、ランチサービスの「館主の野遊び膳」を食べてみてわかったのは、郷土料理の名店だったということです。
しかも、イノベーティブな要素を孕んでいるところも面白く感じました。意図してかどうかはわかりませんが。
・蕎麦の可能性を、さりげなく広げるセット料理
蕎麦じたいの評価に関しては、多くの場所で語られていると思いますので、ここでは、料理全体を見渡してみたいと思います。
というのは、コースで味わうと、蕎麦が、例えばイタリアンのパスタのような存在であると感じられたからです。
パスタにしても、単品で食べることもありますし、コースの中でプリモピアットとして食べることもあります。
それと同じように、ときに前に出て主役になり、ときに裏方に回りながら、蕎麦が中心にある印象を受けました。
そこは、やはり長野ということでしょうか。そのくらい生活の近い場所に、蕎麦があるのだと、勝手な想像を膨らませます。
この「そばの実と無農薬米・雑穀のリゾット風」のように、いわゆる蕎麦のイメージを前面に出してはいなくても、やはり遠くに蕎麦の姿が見えるんです。
蕎麦を目的に食べに来ていなくて、どこかに蕎麦が包み込んでいるといいましょうか、一般的な米のように、要は主食であるということでしょう。
・その土地ならではの素材の良さが真髄
さて、蕎麦も含めて、この『職人館』の素材の良さに集約されると思います。
高級食材ということではなく、コンディションの良い素材。
その意味で印象に残ったのは、「村の豆とうふ」と「りんごと野菜のサラダ」でした。
テーブルに付くと、秋の時期だからか、突き出し的に豆が置かれています。それに続いて出てくるのが、この豆腐。
なんのことはない、生姜と醤油の冷奴に見えるのですが、口に入れた途端に、かなりの歯ごたえと素材の密度感に、ただものではないことを悟ります。
少しボソッとした風合いですが、それが雰囲気にマッチしています。
そして、サラダ。これが美しく美味しいのです。
例えば、台北の『MUME』で、あるいは、バンコクの『Bunker』で、美しいサラダは食べてきました。
けれども、一つひとつの野菜のポテンシャルは、この『職人館』で使われていたものに軍配が挙がります。
これは田舎にある店の最大のアドバンテージでしょう。
都市で優れた料理人がどれだけ努力しても、この味は出ないものです。
・既にそこにあるものの美しさ
そして、このサラダが美しいのです
誤解のある言い方をしてしまえば、切っただけなのですが、それでも美しいのです。
デザートに給された干し柿、蕎麦餅、食用ほおずきと、プリミティブ・アートのような美しさを湛えています。
この日の最後は抹茶。
苦味をしっかり味わいながら、ふと「既にそこにあるもの」というフレーズが頭に浮かびます。
美術家の大竹伸朗の著書のタイトルですが、『職人館』に来て感じたのは、こんなイメージでした。
大竹氏の場合は、もっとジャンクなモチーフではあるのですが、本質はさほど変わりません。
眼の前あるそのもののなかに自ずと孕んでいる価値。それを殺さずに皿の上に乗せるという意味を教えてもらったような気がします。
『職人館』のメニュー
蕎麦単品は、890~1,500円。
セットメニューは、皿数に応じて、「そばと何かほしい膳」2,800円、「館主の野遊び膳」3,800円、「山里にきけ膳」4,800円の3種。
ここで紹介した「館主の野遊び膳」から2品ほどプラスマイナスするイメージです。
『職人館 (しょくにんかん)』店舗情報
営業時間:11:30~15:00、17:00~
定休日:水曜・木曜(祝日・GW・8月は営業,1月2月は不定休)
電話番号:0267-52-2010
住所:長野県佐久市春日3250-3
予約に関して
電話にて予約可。
店の地図