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台湾の少数民族ルカイ族の兄弟がフレンチの名店で研鑽を積んだ後、地元・屏東の部落に戻りオープンした『AKAME(アカメ)』。
なぜ、この辺境の地から世界に通じるレストランが生まれたのでしょうか?
現地に赴き確かめてきました。
平均予算:ディナー 10,000~15,000円
「原住民精神と国際的な視野」を併せ持つ、イノベーティブの新鋭
ジャズ教育の最高峰、バークリー音楽院で教鞭をとるピアニスト、山中千尋さんが面白いことを言っていました。
自分がジャズを志す学生だった頃(1990年代)、日本人として染み付いたリズム感や音感は、矯正させるべきクセだった。アメリカン・アフリカンの先駆者たちが築いたジャズ伝統のグルーブ感が絶対的な基準。
でも、現在は、その日本人的なクセが伸ばすべき個性として認識されている。もちろん日本だけのことでなく、カリブでも、南米でも、東南アジアでも、育った環境のなかで身に付いた地域的な個性が、ジャズの世界でも尊重される時代になっている、と。
なるほど、時代は変わってきているようです。
この考えを応用するなら、たとえば音楽で日本らしさを表現するのに、和楽器を使う必要も、純邦楽をやる必要もないのです。
アメリカの黒人文化として始まったジャズでさえも、その人のルーツをダイレクトに反映していくことが作品の個性に繋がっていくというのは、なんだか嬉しくなる話でした。
なぜなら、音楽に限らず、アートでも文学でも食でも何らかの表現に関わる分野を考える際に、実際にそう感じることも多かったですから。
このインタビューを読みながら、そういった感覚をもっとも反映しているレストランはどこかな?と考えていたのですが、真っ先にその一つとして頭の中に思い浮かんだのが、台湾の南部、屏東にある『アカメ』でした。
ウワサがウワサを呼んだ台湾南部の秘境レストラン
相当な台湾ツウでなければ、屏東、それどこ?という感じでしょう。そこからさらにバスや車で1時間弱いった好茶村となれば、「?」が増えていくかもしれません。
朝8:00に桃園空港に到着、バスで駅に向かい、新幹線で高雄へ。そこから在来線に乗り換え、屏東に。
村まで行ってくれるタクシーが見つからず、バスで好茶村の麓まで行き、歩いて30分。予約しておいたゲストハウスに着いたのは、夕方17時前でした…。
そこまでして行く価値のあるレストランかどうか?
半信半疑のような、でも、絶対に行っておかなくちゃいけない確信みたいなものを感じ、東京から12時間かけて向かったのです。
ルカイ族の兄弟が開いたレストランが、口コミで台湾の食通に広まる
『AKAME』がオープンしたのは、2015 年6月のこと。AlexとSkyというルカイ族の兄弟が始めた店です。
Alexはシンガポールの『アンドレ』などで、弟のSKYは、高雄の著名なフランス人シェフであるアントニオのものとで研鑽を積んだ後、故郷の部落に戻ってきたのです。
SNSくらいでしか展開していなかったのですが、どうやら屏東にすごいレストランがあるらしいと、徐々に評判になっていきます。
そして、2017年になった頃には、美食家たちが高鉄や車を走らせ、「禮納里部落」へ押しかけ始めたのです。
店の外観からは、プリミティブな田舎レストランのように見えます。
中に入って驚いたのが、金曜の夜とはいえ満席だったこと。
ほとんどが台湾の方のようでしたが、国内からでも遠いでしょ、ここ。注目度が高いだけでなく、もう人気も確立しているようです。
営業はディナーのみ。
メニューにコースはないとのことでしたので、3-4皿おすすめに従い、バランスを考えながらオーダーします。
この日出ていたアラカルト・メニューは、前菜、メインなどを合わせて25種くらい。
アミューズは、石。ジャガイモです。
北欧系のイノベーティブではよく見られるプレゼンテーションですが、こんな辺境の地で出会ったことに驚きます。
「なんちゃって」ではなく、味や食感などから最先端の技をきちんと得ていることに対する驚きです。
そして、パン。
パン自体もいいですが、穀物の殻を活かしたバターが秀逸。
こちらは、地域の伝統を活かすんだということを示しているようにも思えます。
この最初の2皿で、店のスタンスが垣間見えました。つまり、地域の伝統を、世界最先端にも通じるスタイルで提供するということです。
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確かな技術を感じさせる料理の数々。とくに肉の火入れは相当なレベル
まずは野菜から、「台東手採野菜」。ほぼ山菜で、7種ほど青菜を混ぜているとのこと。
味も様々ですが、全体的に滋味の深さがたまりません。それを半熟玉子とチーズでうまい塩梅に調和させています。
魚介からはムール貝の白ワイン蒸し。台湾南部の海で獲れるものとのこと。
味付けに関しては、オーソドックスなフランス料理ですが、貝の身じたいが少し独特。小ぶりで旨みが詰まっている感じです。
肉料理は、「黒豚梅花、小米起司、龍眼乾刺葱醤」。最高部位をバーベキューした黒豚です。
横に添えられた干し竜眼と刺葱のソースと、小米酒で溶いたチーズが、どこかノスタルジックで、でも新しいテイストでもあるような独特な風味を添えています。
それ以前に、肉の火入れがかなり秀逸です。厨房をみていたら、シェフ1人が張り付き、窯を使って丁寧に仕上げています。
シンガポールの『バーント・エンド』のように、熾き火焼きだけに特化した店ではないですが、この『アカメ』の魅力の半分は、ここにあるようです。そう言えば、「AKAME」という店名の意味は、ルカイ語で「バーベキュー(中国語なら燒烤)」だそうです。
デザートは「鳳梨 焦糖煙燻紅豆 蜂蜜馬斯卡彭起司」。
パイナップルとマスカルポーネチーズをはさみ、軽く燻製した小豆を敷いたデザート。この一見ばらばらな個性の食材の組み合わせが、意外といけます。
南国であり、ヨーロッパ的であり、アジアでありという、摩訶不思議なハーモニーを醸しています。
量もこれくらいでちょうどよかったです。
地元である少数民族の食文化を突き詰めるからこそ、インターナショナルな存在に
今ノリにノッている日本のロックバンドGLIM SPANKYのボーカル、松尾レミさんが面白いことを言っていました。
世界に出るためには、あえて母国語である日本語でやらないといけないと思う、と。英語もわからない自分が、たとえばイギリスのロックに感動するのは、それは彼らがもっとも馴染みのある母国語でやってるから。だから、パッションは伝わるんじゃないか。
世界に出るというのは、ビルボードにランクインするということではなくて、ロックアーティストであれば、イギリスにはビートルズがいる、アメリカにはジミヘンがいる、そしてアジアや日本なら? そう問われたときに、GLIM SPANKYがいるっていう存在になることが目標だ、と。
日本語を地元の食材、ルカイ族の食文化、ロックをイノベーティブ・キュイジーヌに置き換えれば、『アカメ』も、料理においてはそういったタイプのレストランに思えてしまいます。
郷土料理そのままじゃなくても、地域性という個性は出るし、だからこそ、インターナショナルにも通じる料理になるのだ、と。
少なくとも私にとって、イノベーティブという分野では、バンコクには『GAA』が、マニラには『TOYO』が、そして台湾にはこの『アカメ』がある。
『AKAME(アカメ)』店舗情報
平均予算:2,500~4,000台湾ドル(約9,500~15,000円)
営業時間:18:00-0:00(1800、21:00スタートの2回転)
定休日:月・火曜
電話番号:+886 8 799 7321
住所:台湾屏東縣霧台鄉好茶村古茶柏安街17巷8號
オフィシャルfacebookページはこちら
ドレスコードと店の雰囲気
ドレスコードは特にありません。実際、開放感に溢れたお店です。コミュニケーションは英語か台湾語が話せる方なら、まったく問題ないでしょう。日本人との付き合いも深いお店なので、日本人客にもある程度慣れているようですが、日本語での細かな対応は難しそうです。
予約の仕方
予約は電話かFacebookから(台湾語、英語)。毎月初日に次の月の予約受付を開始するとのことです。
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