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「アジア・フーディーズ紀行」を再開!
まずは、先日発表された2017度のランキングも含め、「アジアのベストレストラン50」の5年間を統計化することから、アジアの美食都市の地政学を検証。
フーディーズの次なるディスティネーションはここです!
「アジアのベストレストラン50」過去5年の統計から紐解くアジアのグルメシーン
去る2月21日、ベトナム・ハノイにて。私は歩道に設けられたプラスチックの椅子に腰かけ、『アボカド・シントー(スムージー)』を啜りながら、隣のカフェから漏れてくるwifiを拝借。
iPhoneの画面に流れるライブストリーミングをボケーッと眺めていました。
そう、この日は、「asia’s 50 best restaurants 2017」の発表の日です。
食通の方にはご存知の通り、バンコクの『GAGGAN(ガガン)』の三連覇で終わった2017年の「アジアのベストレストラン50」。
ガガン・アナンド氏が受賞の壇上に『傳』の長谷川さんと『フロリレージュ』の川手さんを招き、ハグしている姿を、日本人として微笑ましく見つめていました。
「アジアのベストレストラン50」2017年の結果を振り返る
何はともあれ、「アジアのベストレストラン50」のリストを、いくつかの視点から見ていきたいと思います。
「ここだ!」というお目当ての店があれば別ですが、どの地域に行けば、効率的に良い店を周れるかはトラベラーとしては必要な情報です。
「アジアのベストレストラン50」も5年分のリストが公表されているわけですので、統計を取ることによって見えてくることもあると思います。
「アジアのベストレストラン50」公式HP(英文)はこちら
2017年、上位店は強豪ぞろい
まず、本題に入る前に、今回のランキングの上位10店を見てみます。
No.1の『ガガン』とNo.10の『Burnt Ends(バーント・エンズ)』を除いて、強豪店、それもどちらかと言うとグランメゾン系が確実にポイントを挙げています。
後述しますが、新しい感覚を体現した新店のノミネートが顕著だった2017年の中、TOP10だけは逆行しているともとれるラインナップかもしれません。
でも、言い換えれば、斬新さを強調するわけではないのに、訪れるたびに「驚き」を与える圧倒的な美味しさを提供している店。絶対に間違いがない、本当の名店なのでしょう。
見事、3連覇に輝いたバンコクの『ガガン』。クリエイティブな皿が怒涛のように給されます
注目株は、シンガポールのフレンチ『ODETTE(オデット)』。
現地のシェフなどから、「あそこは良い」という噂は多く聞いていたのですが、初登場でNo.9とは快挙としか言いようがありません。
また異彩を放っていたのも、No.10に入ったシンガポールの『バーント・エンズ』でしょうか。
スペインの熾火焼きの名店『エチェバリ』で培った技を、自分なりに、シンガポールなりに発展させてきた良店です。
とはいえ、薪で焼くという原始的なスタイルから繰り出される料理が、投票権を持つシェフから最も支持され、「Chefs’ Choice Award 2017」も受賞したことは、今後のグルメシーンの流れの何かを示しているかもしれません。
「アジアのベストレストラン50」の5年間で、もっとも熱かった国は?
さて、本題です。まず、今回紹介するポイントに関しては、公表されている過去5年分のランキングをすべて筆者なりに数値化したものです。
その際のレギュレーションとして、No.1は100pt、No.2は99pt、以下1ptずつ減算。Best 50のリストに入っていない部門賞獲得店は30pt加算、入っている部門賞獲得店には10pt加算として、統計を取っています。
日本、香港、シンガポールの3強が牽引してきたこの5年間
5年間の総合ポイントを見ると、ベスト3は以下のようになります。
1位:香港/マカオ(3,811pt、延べ店舗数51)*
2位:シンガポール(3,773pt、延べ店舗数49)
3位:日本(3,687pt、延べ店舗数49)
以下、タイ(2,358pt、延べ店舗数29)、中国本土(1,754pt、延べ店舗数23)、インド(1,514pt、延べ店舗数22)、韓国(810pt、延べ店舗数11)と続きますが、グラフをみれば一目瞭然なように、香港/マカオ、シンガポール、日本が圧倒的な三強。
この3か国に大きな差はありません。
そもそも「アジアのベストレストラン50」の投票のレギュレーションには、アジアを6エリアに分け有権者を持つとありますし、そしてアジア全体で50店という数の限定があるので、事実上、一つの国の“上限枠”みたいなものができるのは避けられないはず。
ですので、この3か国は、一線を越えたトップグループだということは確かでしょう。でも。この3か国のみを対象に、Best50をつくったら、もう少し開きが出てくるのではないでしょうか。
*香港/マカオは現在、行政区分上は中国に入りますが、特別行政区であること、文化的背景から、便宜上、ここでは中国本土と分けています。
タイの躍進により4強時代に
続いて、上位7か国が、「アジアのベストレストラン50」が始まったこの5年で、どう推移してきたかをグラフにまとめてみました。
このグラフを見ても、香港/マカオ、シンガポール、日本のTOP3が、三つ巴で推移してきたことはわかります。
一方で、もっとも気になるのは、タイが2017年に一気にポイントを上げてきたことでしょうか。2017年のランキングだけで見れば、4強時代に入ってきたのかと思わせます(タイの躍進に関しては、本文の後半で)。
逆に、中国本土、インドなどは少し元気がなくなっているというのが、トレンドだと言えるかもしれません。
ただ、注意しなければならないのは、「アジアのベストレストラン50」は、「ミシュラン」のような格付けではなく、あくまでその年に活躍、注目を浴びた店に対しての評価が高くなることです。
つまり、ランクが落ちている国や店が、一概にレベルが落ちたと捉えるのは拙速。その年、新機軸を提案できなかっただけ。訪れて満足できる良店は、中国にもインドにも数え切れないほどあります。
続く注目地域は台湾。新興国は苦戦中?
グラフからは割愛した地域の中で、次に注目すべきは台湾でしょう。2013年にスタートした際には0店舗でしたが、徐々に存在感を高め、2017年には『RAW(ロウ)』『Le Mout(ル・ムー)』『MUME(ムーメ)』と3店舗のノミネート。
そもそも日本人からすればグルメ旅に訪れる地域としてはトップランクで、食の地力は申し分ない国です。
私も1月に訪れた際に新しい動きが出てきていることも実感できましたし、今後の動向が注目されます。
もう一つ、私のようなトラベラーの関心は、さらに周辺の国々です。
ベトナム、マレーシア、ミャンマー、カンボジア、ラオスなどASEAN諸国を数年おきに訪れるたびに、経済・文化的な躍進に驚き続けています。その発展のスピードにグルメシーンが付いてきているか。まだ発見されていない良店が生まれているのではないか。
そんな淡い期待を抱かずにはいられなかったんですが、残念ながら、まだ結果が出るには至らず。カンボジアで唯一ノミネートされていた『CUISINE WAT DAMNAK(キュイジーヌ・ワット・ダンマック)』もランク外に落ちてしまいました。
ただ、経済が発展し、ヒトとカネの行き来が盛んになれば、ハイエンド/ハイセンスなレストランの需要も高まるもの。面白い店が出てこないか、今後も目を離せません。
ジャンル別のトレンドを試算
フランス料理の隆盛は変わらず。そして…
過去5年でベスト50にノミネートした全店舗をジャンル別にみていくと、次のグラフのようになりました。
フランス料理が断トツ。続いて、日本料理が安定して2位につけ、それ以外は混戦というのが結果です。その中で、特徴的なのは、既存のジャンルにはハマり切らない「その他」のカテゴリーの店が増えてきていることです。
トラッド、イノベーティヴ? スタイル別にみる5年間の変化
個人的な考え方なのですが、現在のレストランを整理する際に、私は以下の3つに大別しています。
- 『El Bulli(エル・ブジ)』以降の「イノベーティヴ第一世代」
- 『noma(ノマ)』以降の「イノベーティヴ第二世代」
- それ以外(便宜上「トラディショナル他」としています)
まず、ここ数十年のなかで、グルメシーンを大きく変えたのは、やはり『エル・ブジ』でしょう。化学的なアプローチを取り入れ、料理の概念を一新したそのスタイルが、その後の料理界に大きな影響を与えたことに異論を唱える方は少ないと思います。
また、ジャンルというより、スタイルやアティテュードの問題とも言えますので、インド料理でもタイ料理でもペルー料理でも、そして日本料理にも世界の料理にインパクトを与えたことも特徴です。
その『エル・ブジ』のアプローチがあったからこそ生まれた『ノマ』。冒険的でありながら自然回帰の傾向を持っているところが特徴です。
食材や地域文化へ高いリスペクトを払うエコロジカルなカルチャーとの親近性も高く、グランメゾン的な形式ばったスタイルではなく、シンプルにそぎ落としたカジュアルな空間であることも挙げられるでしょう。日本のお店で言えば、『レフェルヴェソンス』を筆頭に『傳』『フロリレージュ』などをここに分類しています。
そして、それ以外。「トラディショナル他」と暫定的に付けていますが、もちろんこのカテゴリーの中でも、時代に合わせた革新は行われていることは忘れてはなりません。
なお、どの店をどのカテゴリーに入れるかは筆者の独断に基づいています。明らかにこのカテゴリーだと言える店もあります。けれども、多くの店は、それぞれのスタイルが混在した中で、個性を出しているのが実際だと捉えていますが、わかりやすくするために、どこかのカテゴリーに半ば無理やり入れています。
例えば、『ガガン』は当初イノベーティヴ第一世代的なアプローチでした。最近では第二世代のアプローチにかなり近づいていますが、店の歴史を考えた上で、現状では「イノベーティヴ第一世代」に留めました。そういった状況から、客観性をもった断言はできないので、あくまで参考であることをご了承いただい上で、これらの推移をグラフにしてみます。
タイ躍進の原動力は、新世代の台頭
この流れは、冒頭に挙げたタイの躍進にも関係しています。新しくノミネートした『SÜHRING(ズーリング)』『LE DU(レ・ドゥ)』、ランク内に復活した『BO.LAN(ボラン)』など、この「イノベーティヴ第二世代」の上積みが、タイ全体のジャンプアップを支えたことが下記のグラフでも見てとれます。
ちなみに、2017年のランキングでは、日本もこの「イノベーティヴ第二世代」の果たす役割が大きな国になっています。
今後の躍進は、「イノベーティブ第二世代」の活躍が鍵となるか
各国の状況などを踏まえた上で、この「イノベーティヴ第二世代」を総合的に抜き出してみると、存在感が飛躍的に増していることは一目瞭然でしょう。
この流れは、あと数年は続きそうな勢い。となると、このカテゴリーの良店がどれだけ育ってくるか。
それが各エリアの今後の隆盛を左右する鍵となってくるでしょう。
2017年の「One to watch」賞(ランク外だけれども、今後注目すべきお店)を受賞した『Toc Toc(トクトク)』を輩出した韓国などが、来年どこまで上位に食い込んでくるかも見ものです。
まとめてみると
以上のように、統計から導いた数字から見ると――
- 安定したグルメシーンを堪能したい場合は、香港/マカオ、シンガポール、日本の三強へ
- 新しく現れた才能による躍動感を感じたいなら、タイ・バンコクへ
- さらにエッジの立った新鋭を探すなら、台湾や韓国へ
フーディーズにとっての次なるデスティネーションは、こんな感じでまとめられるでしょう。ベスト50にノミネートされたレストランを目的に現地に飛ぶのもいいですし、出張ついでにでも、観光ついでにでも、ご興味のある方は、アジアのレストランの面白さをぜひ体感していただきたいと思います。
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