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懐きを想い、新しきを識る。
私が知っている世界のレストランのなかで、もっともこのフレーズを強く感じさせる店の一つが、ベトナム北部の山岳リゾート・サパにある『ヒルステーション・シグネチャーレストラン』。
少数民族の伝統食を現在にも通じるプレゼンテーションで提供する、この稀有なレストランをご紹介!
平均予算:ランチ 2,000~3,000円、ディナー 3,000~5,000円
少数民族ザイ族の伝統食を再発見したレストラン
20世紀初頭のフランス統治時代から、ベトナム北部の避暑リゾートとして発展してきた街、サパ。
以前は、近隣の山岳少数民族の村へのトレッキングを目指す、一部の海外トラベラーたちが訪れるだけの秘境の雰囲気を残したデスティネーションでした。
・秘境と呼ばれたフランス統治時代からの高原リゾート、サパが発展している!
昨今はハノイからのハイウェイが開通し、ベトナム経済の発展に伴い、国内旅行を楽しむベトナム人観光客も急激に増え、とくに週末には、一大観光地の様相を呈しています。
そういったリゾート地としての発展によって、訪れるトラベラーたちが多様化するとともに、現地の食シーンも少しずつ変化が見られています。
観光客に向けたお祭り騒ぎのようなレストランが増える一方で、経験値の高いトラベラーに向けたシックなレストランが生まれています。
今回は、後者で注目すべきレストラン「ヒル・ステーション・シグネチャー・レストラン」をご紹介します。
・「懐きを想い、新しきを識る」食文化も復活。ハイセンスなトラベラーに人気
と、冷静に状況を書いてきましたが、実はこのレストランに出会った感動は、個人的には一塩ならぬものでした。
冒頭に書いたように、懐きを想うことによって新しさを識るというか、外の世界に知られることなくひっそり守られてきた文化に、探してきたものを見つけたというか。
日本で言えば、滋賀の『徳山鮓』を体験した時の感覚に近いと言えば、伝わる方もいるかもしれません。
・偶然ランチで
出会いは偶然でした。
雰囲気の良さにつられ、ランチタイムにふらっと入ったのですが、エントランスを入ると、大きな暖炉。ナチュラルな雰囲気に盛り上がります。
そしてメニューをみて、ただ者ではないことを悟ります。
ベトナム北部に伝わる野菜「SU SU(ハヤトウリの一種)」を使ったスープ、同じく代表的な野菜でもあるかぼちゃを使ったいくつかの料理、「水牛のジャーキー」など、派手さはないけれども、ここにしかないようなメニューばかり。
この時点でもう、もう1度来ると決めたので、ランチでは比較的軽めのメニューをオーダー。
「2種の豆腐、ビレッジ風」、「3色のもち米」、「豚バラの炒めもの」。
こんな辺境まで来ても、ここはアジア。日本語に訳してみると、親しみやすい食材が並びます。
まずは、「3 Colours Dizy Sticky Rice」。
色だけでなく、味わいも微妙に異なります。
プレーンと葉物野菜の2タイプの「Village Style Tohu Duo」。
香りの強い山椒がアクセントに。
そして、「Smoked Pork Belly Fried with Garlic & Vegetable」。
豚バラの美味しさは世界共通ですが、マリネに使われた地産の醤油が香ります。
会計は、別注文したジャスミンティーを含めて、260,000ベトナムドン(約2300円)。
サパでは、500円くらいでセットランチが食べられる物価なので、破格とも言える料金かもしれませんが、満足感からすれば、非常に安いと思います。
・ふたたびディナーで
2日後。予約した20:00に訪れると、ろうそくの灯のみで照らされたムーディーな雰囲気。
なんてロマンティックな!と思っていたら、スタッフから「すみません、一時的な停電で」との詫びが。その15分後にライトが点灯します。
居心地の良さについ忘れてしまいそうになっていましたが、そこは東南アジアの片田舎。こういうことはザラにあります。
多少暗くても、ろうそくの光のほうが雰囲気があってデフォルトでも良いような気もします。
夜なので、まずはアルコールから注文。名物は「ライス・ワイン」と「コーン・ワイン」。どちらか迷ったのですが、飲み比べセットがあったので、そちらで。ワインと名付けられていますが、焼酎ですね。
「Combined Tasting Set」。左が「Rice Wine」で、右が「Corn Wine」。
当然、ライス・ワインでは米の甘さ、コーン・ワインではトウモロコシの甘さが引き立ちますが、蒸留酒なので、微妙な違い。
むしろ、自家製で丁寧に作られているせいか、透き通ったクセのなさにどちらも好感が持てました。
つまみは「水牛のジャーキー」で。
多少の筋っぽさは感じるけれども、そもそもジャーキーはそういった傾向があるので、気にならない程度。
この滋味が、透き通った焼酎と絶妙なバランスを醸しています。
続いて、「マスのバナナリーフの包み焼き」。
おそらくマスには少し臭みがあるのだろうけど、バナナリーフの香りが程よく調和。
さらに、包み焼きならではの、身のふんわり具合も堪能できました。
最後は、スペシャリテの「かぼちゃで「Boiled Pumpkin」。
このシンプルな料理がスペシャリテというのも、不思議なものですが、それに見合う味わいの奥行き。
なんと例えれば良いのでしょうか。「死ぬ前に食べるとしたら何?」という質問に、自分の周りでは、圧倒的に「最高に旨い米」と答える人が多いのですが、その旨い米にも匹敵するような、そこに住み人と料理の距離感の近い食材でしょうか。
ここまでの料理があまりに美味しかったので、勢いでもう一品デザートを。「りんごパイ」。
全粒粉を使っているのでしょう、ザクっ、サクっとした皮に、甘さを抑えたリンゴに絶妙なシナモンの香り。ここはニューヨークか?!
混迷の時代なんだと思います。激動と言ってもいいのかもしれません。
トップ・クリエイターでも自分が何をすればいいかを迷い、だからこそ、もっとも確かな”個”に拠り所に――遅ればせながら、『noma』関連の映画をDVDで観た感想は、そんなことでした。
サパの街を散策していて、たまたま見つけたレストランでしたが、冒頭にも書いたように、ここを見つけた感動は一塩ならないものでした。
それは、シンプルだからこそ、現在ではかえって実現するのが難しいもの。
『ノーマ』が実現しよとしているような世界観の根底にある1つ——そんな小さな宝物を見つけたような喜びに満ちたレストランです、少なくとも個人的には。
『The Hill Station Signature Restaurant』店舗情報
営業時間:ランチ ディナー
定休日:日曜
電話番号:+84 214 388 7111
住所:037 Fansipan Street Sapa
ドレスコードと店の雰囲気
ドレスコードは特にありません。実際、リゾート地の開放感に溢れたお店なので、いわゆる「スマートカジュアル」が無難です。食事の間も含めて、コミュニケーションは英語かベトナム語が話せる方なら、まったく問題ないでしょう。
店の地図