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オープンして1年足らずでミシュラン1つ星を獲得。
バンコクの中心地、サトーン通りの外れにありながら、隠れ家的な雰囲気も漂うコンテンポラリーなタイ・レストラン『Saawaan(サーワーン)』。
タイ産の食材にこだわり、あくまでタイ料理のレシピを踏まえながらも、現代的な表現に落とし込むセンスに、タイ料理の進化と奥深さを再認識しました。
平均予算:ディナー 10,000~15,000円/「ミシュランガイド バンコク 2021」1つ星
・伝統でありながら最新。タイ料理の進化を感じさせるミシュラン1つ星店
タイ料理の進化が止まりません。
クオリティを上げながら、新たな世界観を提示する新店がどんどん増えていますが、その中で最近では「見つけた!」と嬉しくなったのが、この『Saawaan』。
昨年11月に発表された2019年版タイ版のミシュランで、新たに1つ星を獲得したお店です。
1つ星と言っても様々な店があるのですが、その中でも「何か匂う」と訪れてみたら、その勘は当たったと言えるものでした。
端的に言えば、オーセンティックなタイ料理をベースにしながらコンテンポラリーな表現に仕上げる方向性だと言えるでしょう。
その言葉面だけ取ると、『Le.Du』や『80/20』、『Sra Bua by Kiin Kiin』とどう違うんだい?ということになりますが、微妙にそれぞれ立ち位置が違って、どこにも似てないところが面白いところ。
この『Saawaan』にしてみれば、マッピングするなら、むしろ『Bo.Lan』をのような世界観をさらに推し進めたというほうが正確かもしれません。
鍵は、タイ料理としての基礎力が高いということであり、詩的に捉えることができる雰囲気を持っているところでもあります。
どういった意味か、紐解いていきましょう。
・大人の雰囲気が漂うシックな佇まい
場所はシーロムのはずれ。名店『Nahm』がある南サトーン通りを、徒歩で3分ほど東に入ったところにあります。
近くには、「アジアのベストバー50」にランクインしているバー『Smalls』などがあって、それなりに飲食店の連なる通りです。
中に入ると、シックなダークトーンとカラフルな壁紙のコントラストが印象的です。
・ディナーのみの営業で、メニューは1コースのみ
営業はディナータイムのみ。
メニューはコース1種の潔いスタイル。
料金は、1,950THB(約7,000円)+税サ。
ドリンクは、ビールやワインなどをグラスで頼むこともできますが、ワインペアリングもあります(2,350THB++)。
ノンアルコールのコースもあって、ティーペアリングです(680THB++)。
メニューを見ると、お茶もタイ産で統一されていることに、店のコンセプトが伺えます。
酒に強いわけでもないくせに、バンコクの夜なので、飲み明かすのだろうと思って、ディナーではノンアルコールにしておきます。
すると、食前茶として自家製の昆布茶が出てきました。ベースは、チェンマイの紅茶だそう。
そして、最初はメニューには載っていないコンプリメンタリーから。
卵をベースにサワーのエスプーマが中に詰まっています。
タマリンドのソースの味付けが、いきなりエスニック感満載です。
・グリル、蒸し、炒め物、発酵など伝統的なタイ料理で使われる技術を網羅
季節感を重視した10皿のコースのスタート「RAW(生)」では、料理人の方が登場。
テーブル脇で仕上げてくれます。
刺し身にしてもいいような新鮮なブリを叩きにして、卓の前にズラッと並んだエシャロットやチリをはじめとするスパイスやハーブ、調味料を混ぜていきます。
完成した料理をバナナの葉に載せるプレゼンテーションもいいものです。
刺し身でそのまま食べても美味しいだろう脂ののったブリに、数々のハーブが複雑に絡んでいく、タイらしい味。
唐辛子は少し控えめにしてもらったのですが、さり気なくパンチが効いています。
2品目は「DIP(浸す)」というカテゴリーから。
バナナの皮に包んで蒸したもち米です。ココナツが混ざっていて、甘い香りも漂わせています。
田んぼで育つ沢蟹からつくったブリュレのようなものと一緒に食べていきます。
最初の2皿に合わせるのは「STEAMED GREEN TEA」。
緑茶ですね。日本茶との共通点も多いですが、若干大地のような香りが特徴的です。
・一般的なタイ料理にも新たな息吹を与えた中盤
続いては、「FERMENTED」。つまり発酵料理です。
発酵調味料でマリネした牛肉に、シャキシャキのキュウリ。シグネチャーの一つです。
そして、「BOILED」。
牡蠣とヤシの実の芯、燻製した魚に小ぶりのキノコが盛られた器が出てきたので、どんな料理かと思ったら、サービススタッフがスープを急須から注いでくれます。
おしゃれなプレゼンテーションですが、美味しい「トムヤンクン」でした。
3-4皿目に合わせたお茶は、「Lanna Tea(ランナーティー)」。
チェンマイの北部で栽培されているタイの紅茶です。
アッサム系の紅茶ですが、木やナッツの香りが混ざったスモーキーなテイストが特徴でした。
外国語での予約が面倒な方は、予約代行サービスなどが便利です。
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・変化球を織り交ぜ、緩急を付けたコース展開も秀逸
トムヤンクンでタイらしさを味わったあとは、変化球がきました。
富士山カヌレのようなものが載った蒸し器が出てきて、「なんだ、これ?」と思っていたら、中だけ食べるよう。
蓮の葉に包んだカレーテイストの蒸し物でした。
このあたりからクライマックス、メインに入っていきます。
マニューでは「STIR-FRIED」、揚げ物になっていたのですが、出てきたのは、パスタのようなもの。
よくよく見たら、イカでした。
上に載ったのは燻製卵の黄身を、トリュフのように目の前ですってくれます。
奥にあるのは、バジルとマッシュルームのペースト。
タイ版のイカ墨そうめんパスタみたいなことでしょうか。
・豚喉肉とカレー、王道なのに新鮮
そして、メインの肉料理は、「CHARCOAL」。炭火で火入れしたイベリコ豚です。
豚のノド肉を使っているところが、タイっぽいでしょうか。
味はタイの豚肉料理の名物「コームーヤーン」を洗練させたイメージです。
最後は「CURRY」。
甘めに味付けされたチキンのレッドカレーで、添えられたのは「FORGET HUSBAND RICE(忘れられた夫の米?)」と名付けられらた穀米。
北部の少数民族モン族が伝統的に食べていた米で、ビタミンが豊富なことで知られています。
香りがある玄米のようなイメージでしょうか。
この2品に合わせられるのは、「白茶」と呼ばれるSILVER NEEDLEです。
口直しのソルベとともに、水出しのチェンマイ産ランナウーロンティー。
最後の「DESSERT」にも、驚きが含まれていました。
パンプキンとココナツなどでつくられたババロアのようなスイーツですが、かなり凝った盛り付けが印象的です。
最後もトロピカルフルーツを駆使した小菓子で〆ます。
・タイ料理において、詩人のような冒険家
全体的には、タイ国内の食材にこだわり、レシピも伝統的なものでしたが、初めて食べた料理のように新鮮に感じられたことが、自分でも不思議な体験でした。
それはどういうことだろう?と考えると、ふと以前、宗教学者の中沢新一さんが、旅に関するトークイベントで面白いことを語っていたことを思い出します。
いまや、以前のような冒険家という肩書はなくなった。なぜなら、地球上に未踏の地なんて、ほとんど残っていないのだから。もし今、冒険家と呼べる人がいるなら、それは詩人のような表現力を持っている人じゃないだろうか。既に知っている場所を、まるで新しい風景のように見せ、既に知っているものに新たな息吹を与える。そんな表現にしか冒険はない。
かなり端折りましたがそんな内容でした。
そして、既に知っているはずのタイ料理に新たな息吹を与えている『Saawaan』は、そういった意味で冒険的なレストランのようにも映ります。
多くの感度の高いレストランが、自分たちの色のルーツへの戻り方を模索している――と言ったら語弊があるなら、「ニュー・ノルディック・キュイジーヌ」に代表されるインターナショナルなセンスという横軸と、その中で地域や自身に伝統の食文化という縦軸のバランスに意識的にならざるを得ないという言い方でもいいのですが――2019年という時代のなかで、一つの試金石となるようなレストランであったことは確かです。
『Saawaan(サアワアン)』店舗情報
平均予算:3,000~4,000THB(約10,500~15,000円)
営業時間:18:30-21:30
定休日:火曜
電話番号:+66 2 679 3775
住所:39/19 Soi Suan Phlu, Sathon Road, Bangkok
オフィシャルHPはこちら
予約の仕方
電話か、オフィシャルHPからも予約可。
日本語で予約したい方は、予約代行サービスなどが便利です。
店の地図
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