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台湾・台中にありながら、コンテンポラリーなシンガポール料理の騎手となりうる『現代新加坡料理 JL STUDIO(JL スタジオ)』。
シンガポールの伝統料理、家庭料理をニューノルディックキュイジーヌを経由した手法で、コースを通して美しい食体験に昇華するセンスに脱帽です。
平均予算:ディナー 15,000~20,000円/「ミシュラン台湾 2020」2つ星、「アジアのベストレストラン50 2020」No.26
台湾・台中で現代シンガポール料理を進化させる注目の新鋭
このサイトで紹介しているお店をいくつか見てくれている方なら、地域のルーツをリスペクトしつつ、イノベーティブでもある料理がメインになっているのはおわかりかもしれません。
『ノーマ』以降、トップレストランの間では大きなトレンドの一つとも言える手法なので、アジア各地でこの手の新感覚の料理が生まれているのは嬉しい状況ですが、アジア3大美食エリアの一つ、シンガポールではなかなか見つからないなぁと苦虫を噛み潰すような気持ちでいました。
シンガポールにある『ワイルドロケット』は近い線をいっていますが、やはりイタリアンがベースになっている印象ですし、プラナカン料理の『キャンドルナッツ』もモダンなプレゼンテーションではあるものの、斬新さは抑えめ。
そんなありそうでなかったコンテンポラリーなシンガポール料理を、なぜか台湾の台中で発見してしまいました!
・プライベートダイニングの雰囲気も漂う、隠れ家的な店のつくり
場所は、台中駅から7kmほど西に行ったエリア。
市の中心部からも外れていますし、観光エリアでもないので、まったくイメージがつかなかったのですが、無料で乗れる台中の市バスを降り、公益路二段を歩いていると、結構おしゃれなレストランが連なっています。
目的の『JLスタジオ』の看板は見つけたものの、入り口が見つかりません。
仕方ないので、1階のカジュアルダイニングのスタッフに声を掛けると、ここが入り口だとか。
そのままテーブルの間を通り、奥のエレベーターへ。へえ、こういうつくりなんですね。
プライベートダイニングのような感覚もあって、悪くありません。
・ディナーのみの営業で、通常は2種のコースを提供
通常、10皿で2,800台湾ドル(約10,000円)の「Menu Discovery」と、12皿で3,800台湾ドル(約13,500円)の「Menu Experience」の2つのコースのみ。
この日は大晦日でしたので、「Menu Experience」のみの提供でした。
このメニューがしっかりつくってあって、シェフの想いが序文に書かれています。
シンガポール出身で、北欧でも研鑽を積んだジミー・リン・シェフが、生まれ育ったシンガポールや東南アジアの食文化にインスピレーションを受けてつくられている料理の数々だということが記されています。
ちなみにこれ、オーナメントに見えますが、ドリンクリスト入れでした。
ドリンクは単品からワインのペアリングコースまで揃っています。
ペアリングは、3~5杯のデギュスタシオンだったので、あまり飲まない方には、ありがたいラインナップでしょう。
台湾自体、あんまりアルコールを飲まなかったりしますので、その食文化が影響しているのかもしれません。
詳細は後ほど書きますが、スタッフの方と「ナチュラルワイン」の話をしていたら、ビオ寄りで3杯選んでくれました。
・アイデアに溢れた美しい小品が続くスナック~前菜
「Rose Shirimp, Cuttle Fish, Chinese Badish」
プラナカン料理(シンガポールなどに中国から移住してきた人びとの食文化)で前菜、タルトの器なかに具が盛られる「クエ・パイティー」も、美しいスタイル。
おいしいとは、美しい味と書くのです。
続いて「Natstrtium, Cabbage, Spring Onion」と美的なスナックが並んだと思ったら、ここでモードチェンジ――。
新発売(?!)の「ポーキー」です。正式なメニュー名は「HuaLian Magao, Bar Kwah」。
日本人より日本のスナックを愛する台湾ならではのセンスとも言えますが、日本人に出すのはさすがに照れるのか、少しはにかんでいるスタッフが可愛かったです。
ここでメニューには載っていなかった「Betal Leaf」。東南アジア、オセアニアなどで用いられる、噛む嗜好品と知られたキンマという葉。
石とじゃがいもで「一つだけ食べられる石があります」というプレゼンテーションは、いくつかのレストランで経験してきましたが、葉っぱは初めて。
中に具が入ったものが正解なのですが、葉ごと食べられるので、全部食べられるので、一つだけではないんですけどね。
・食材のポテンシャルを素直に出しながらも、斬新さも忘れないコース中盤
スナック、前菜と目と舌で楽しめる小品が続きましたが、このあたりから少しモードチェンジ。
「Bafun Un, Papaya, Sweet potato」。
北海道産の馬糞ウニをマンゴーとともに寿司のように食べるという、日本ではなかなか思いつかない組み合わせ。
スープ仕立ての「Abalone, King Oyster, Shroom Kut Teh」。
鮑と牡蠣。しいたけのスープがオリエンタルな印象を与えています。
少し強めの皿が終わったところで、中国茶で口直し。
さりげないですが、こういう小品が、意外と印象に残るものです。
・クライマックスの料理に、さり気なく込められたシンガポールのテイスト
「次の料理にあわせて」とワインではなく、フルーツフレーバー満載のカクテルで。
中盤のハイライトのエビ「Penghu Jumbo Prawn, Banana Curry, Banana Blossom」。カレー風味です。
たしかに「りんごとはちみつ とろ〜りとけてる♪」じゃないですが、カクテルのフルーツとこの海老カレーの組み合わせは絶妙ですね。
それはさておき、シンガポールはインド人も多いので、カレーも一般的だということでしょう。
米粉の皮に、甘辛のソース。そう、シンガポールの麺料理の代表格「ラクサ」の再構築ですね。
改めて、「そうだ、ここはシンガポール料理だったんだ」と印象が戻ります。
「Homemade, Kueh Tiao, Market Sea food, Kai Lan」。
リースリングやゲヴュルツトラミネールなど甘みのあるテイストが特徴の仏アルザス産で、あえてピノ・ノワールのビオワイン。
イチゴのようなアロマで、軽めのボディが面白かったです。
「Boneless Short Rib, Fish Sauce, Caramel, Green Chilli Sambal, Jidame, Petai」。
肉料理のメインは、ショートリブ。
サンバルソースなどをさりげなく使い東南アジア感がほのかに香ります。
口直しのソルベ「Jambu」にも一手間かかっています。
おまけで出してくれた独特な日本酒。
12月に『Ode』とコラボしたそうなのですが、生井シェフが残していってくれたものだそう。
デザートは「Milk Custard Apple, Osmanthus」。
冬なので雪を降らせていました。
台湾でもシンガポールでも降らないでしょうから、イメージのなかの雪ですね。
小菓子も、端麗なプレゼンテーション。
最後までぬかりはありません。
・アジアレベルでも次に来そうな新鋭
率直にかなり好みで、客観的にもクオリティの高いコースだと思います。
個人的に2018年に出会った新鋭のレストランのなかでは5本の指に入る出来。
これまで台中で唯一、国際的なフーディーから注目されてきたのはモダンフレンチの『ル・ム―』でしたが、残念ながら、2018年で10年の幕を閉じてしまいました。
台中は、美術館や博物館、一部市バスが無料で使えたりと、文化都市としては魅力的な街なのですが、観光資源はそれほど豊富ではないので、なかなか足を運ぶ機会をつくりづらくなるかなと考えていました。
以前は『ル・ムー』があったのですが、その不在を補ってあまりあるレストランだと思います。
3月に発表される「アジアのベストレストラン」では、次に活躍が期待される店を表彰する「One to Watch Award」の最有力候補の一つじゃないかと勝手に推してみます。
『JL Studio 現代新加坡料理』店舗情報
平均予算:5,000~7,000TWD(約18,000~25,000円)
営業時間:18:00-22:30
定休日:月曜
電話番号:+886 4 2380 3570
住所:台中市南屯區益豐路四段689號
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