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110℃という低温で火入れする、独特な低温揚げが真骨頂のとんかつ店。
昼も夜も行列が絶えない名店として知られていましたが、2019年春に高田馬場店は弟子に譲り、本家は7月に南阿佐ヶ谷に移転しています。
さらに特徴を研ぎ澄ました『成蔵』の現在をリポート!
平均予算:ランチ 4,000-5,000円、ディナー 4,000~5.000円 /「ミシュラン東京 2021」ビブグルマン掲載
とんかつの枠を超えた、肉料理の逸品
現在は、南阿佐ヶ谷で新しいスタートを切っている『成蔵』ですが、今回は少し過去の話から始めさせてもらいます。
初めて『成蔵』に行ったのは、2016年頃だったでしょうか。
店の存在を知ったのは、世田谷の某和食店のご主人から。
「あそこは、すごい。私自身、店が休みの日に、1~2時間並んでも食べに行きますよ」、と。
1つ星を獲っている職人気質の料理人にまで、そんな賛辞を言わしめるとんかつ店って、どんな店なんだろう?という興味本位で土曜の夕方に高田馬場に足を運んだのでした。
実際、とんかつの概念が変わるくらいの衝撃を受けたのを、今でも鮮明に覚えています。
「シャ豚ブリアン」の衝撃
初めてうかがったとき、お店のお勧めを訊いたら、「『雪室熟成豚 シャ豚ブリアン(しゃとんぶりあん)』です!」ときっぱり。
普段はロース派で、ヒレカツの魅力をあまり感じられないタイプなのですが、きっぱり答えていただいたので、最初なので店のお勧めに従います。
メニューで確認すると、シャトーブリアンの豚肉版とのこと。
ヒレの中でも最も柔らかい部分(牛肉でいうシャトーブリアン)を厚切りにして低温から時間をかけてジューシーに仕上げています
待つこと約30分。相当な肉厚、というか塊肉のようなかつが出てきました。
この大きさだけで、ヒレカツの概念は少し変わります。
食べてみて、またびっくり。
肉のしっとり感が破格です。
衣は薄きつね色ですが、意外やカリっと仕上がっています。
肉だけに集中すると、「とんかつ」であることを忘れそうになるのですが、この衣でやはり「とんかつ」だと思い出させるくらい。
訊けば、かなり低温で揚げているから出る特徴だということ。
なるほど、もともと『成蔵』のご主人、三谷さんは御成門『燕楽』で修業を積んだ方です。
1950年創業の老舗ですが、『燕楽』自体が、比較的低温で仕上げることを特徴としていたことが、『成蔵』のスタイルにも影響していたのでしょう。
その特徴を研ぎ澄ましていくと、こんなレベルにまで達するのかと感動すら覚えました。
当時、料理業界全体で、肉を美味しく仕上げるには、低温で肉にストレスをかけずに火入れしていく方法が美味しいとクローズアップされていたのですが、「低温調理」という言葉を客の側まで意識するようになっていました。
そんなトレンドと相まったことも追い風に、『成蔵』の低温揚げも人気を博していったのでしょうが、私自身は「揚げ」というより「火入れ」という言葉のほうがふさわしいように思えます。
例えば、天ぷらの名人から「天ぷらは揚げ物じゃなくて、蒸し物だ」というような言葉を聞くことがあるのですが、それに近いイメージです。
旨さということだけで考えれば、私にとって最高の肉料理はフレンチの名店・北島亭の「仔羊の岩塩包焼き 香草風味」だったのですが、『成蔵』の「シャ豚ブリアン」は、それに匹敵するものとして捉えるようになったのです。
2019年春、突然の休業→阿佐ヶ谷へ移転
その後、ミシュランのビブグルマンにも掲載され、東京一のとんかつ店という地位を確実にしていた『成蔵』ですが、2019年初頭、突然の閉店宣言でとんかつマニアをざわつかせます。
時間が経つにつれ、詳細がわかってきて、結局はご主人の三谷さんは南阿佐ヶ谷へ移転し(7月オープン)、高田馬場の店舗は弟子たちが引き継ぐ(4月再オープン)ということになったようです。
漢字の『成蔵』が南阿佐ヶ谷の本家で、ひらがなの『なりくら』が高田馬場の分家という扱いになります。
現在の『成蔵』へ行く
東京メトロ丸の内線「南阿佐ヶ谷駅」から、青梅街道を東に向かい、交番のところで右折。
ワンブロック行ったところに、現在の『成蔵』はあります。
駅から徒歩で5分くらい。
住宅街のなかにある普通の一軒家であることが、ちょっと意外でした。
移転当初は、整理券制でやっていたようですが、この環境で行列ができてしまうのはキツい環境だったのか、現在は完全予約制になっています。
と言っても、集合時間に伺って、屋外のベンチで待ちます。
そうすると店員がメニューを持ってきてオーダー、席が空いたら店内に通され、ほどなくして料理が出てくるといった流れです。
たしかに店に着いてから料理が出てくるまでの時間は最短になるやり方でしょう。
ただ、最初に待つスペースは屋外ですので、寒い時期、暑い時期、雨の日などは、それなりの覚悟が必要です。
ガストロノミーの領域に入った「とんかつ」
現在使われている豚は、「TOKYO-X」と「岩中豚(SPF)」、「雪室熟成豚」の3種がメイン。
岩中豚と雪室熟成豚は入荷によって、ない日もあるようです。
メニューは、それぞれ「シャ豚ブリアンかつ2個(120g)or3個(180g)」、「リブロースかつ(200g)定食」「特ロースかつ(180g)定食」が出ています。
その他、日替わりで、セットメニューやサイドメニューがあります。
行くたびに、まだ食べていないロースにしようか、やはりシャ豚ブリアンにしようか迷うのですが、伺った日には「岩中豚特ロースかつ(120g)+シャ豚ブリアンかつ1個定食」(4,780円)があったので即決。
まずは、サイドメニューから箸をつけます。
漬物というよりピクルスというニュアンス。洗練されています。
岩中豚のシャ豚ブリアンは、ジューシーさはキープしつつ、あっさり目。
TOKYO-Xや雪室熟成豚と比べると、インパクトというよりバランス型ですね。
ロースかつをようやく食べて気づいたのは、火入れの仕方に特徴があるのはもちろんですが、それにあったラードとパン粉などを選んでいること。
あまり衣のほうに注目していなかったのですが、薄いきつね色の割にはカラッとしています。
軽い口当たりで、ふんわり溶けていくような食感。
余計な油を吸っていないからでしょうが、普通の素材では、ここまでにはならないと思います。
サイドメニューの「カキフライ」を頼んでついてきたタルタルソースで、これも結構合いました。
卓上に置いてある「純正胡麻油」もいい仕事をします。
ジューシーですが、脂という意味ではあっさり目の肉ですので、胡麻油を少し垂らした時のしっとり感と香りは、また別の次元に連れて行ってくれます。
ところで、最初にお盆が出てきたときには、正直「米、少な!」と思ってしまったのですが、ごはんを食べるためのとんかつという先入観に縛られていたのかもしれません。
これだけ量の肉を食べているので、ちょうどいい分量でした。
むしろ、肉が主役で、米は〆というコース料理に近いものだと考えた方がいいのかもしれません。
米も相当美味いんですけどね。
あと、値段のことにも触れなくてはいけないでしょう。
良い肉を使った美味しいとんかつが3,000円くらいはかかることは常識になってきているでしょうが、『成蔵』は5,000円前後。
質だけでなく、料金を含めて、一般的なとんかつ屋さんではなく、ガストロノミーの領域に入っていると捉えたほうがいいかもしれません。
あるインタビューで、ご主人は「とんかつのおいしさを世界に広めたい」という発言をしていましたが、それを読んで思い出していたのが、『炭火焼肉 なかはら』のご主人・中原さんのことです。
彼は、市ヶ谷に移転してきた当初、「焼肉を、ただ肉を切ってお客さんに焼いてもらうものではなく、ちゃんと料理であり、ガストロノミーとして通用するものだと認めさせたい。鮨などと同じように」と語っていて、それを実現させてきました。
「とんかつ」の分野で、そういった存在になる可能性があるのは、知っている限り、この『成蔵』くらいしか思いつきません。
メニュー
【コース】
「TokyoX シャ豚ブリアンかつ3個(180g)定食」5,780円
「TokyoX リブロースかつ(200g)定食」5,580円
「TokyoX 特ロースかつ(180g)定食」4,980円
「TokyoX シャ豚ブリアンかつ2個(120g)定食」4,780円
「雪室熟成豚 シャ豚ブリアンかつ3個(180g)定食」4,780円
「雪室熟成豚 リブロースかつ(200g)定食」4,380円
「雪室熟成豚 特ロースかつ(180g)定食」3,980円
「雪室熟成豚 シャ豚ブリアンかつ2個(120g)定食」3,980円
など
*メニュー・料金はあくまで参考になります。季節や食材の入荷状況によって変わることを前提にご覧ください。
『とんかつ 成蔵』店舗情報
営業時間:ランチ 11:00~14:00、ディナー 17:30~20:00
定休日:不定休
電話番号:03-6882-5214
住所:〒166-0015 東京都杉並区成田東4丁目33−9
予約について
完全予約制です。予約は「OMAKASE」から受け付けています。
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地図&アクセス
東京メトロ丸の内線「南阿佐ヶ谷駅」から6分
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