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22歳から16年間、正統派フレンチの名店『北島亭』でスーシェフを務めた大石義一シェフが銀座で独立。
カウンターのみ全12席、約15皿のおまかせコースのみで勝負に打って出る『銀座 大石』を最速レポート!
平均予算:ディナー 25,000~35,000円
ヒトサラで予約する ※リンク先から「銀座大石」で検索してください
令和時代におけるクラシック・フレンチの美味しさの基準
なんだかんだ言って、私にとって食の師匠の1人と言えるかもしれません。
あの東京屈指の正統派フレンチ『北島亭』で16年にわたり、スーシェフを務めた後、今年9月2日に『銀座 大石』で独立を果たしたこの大石義一シェフのことです。
約8年前のこと。数年働き、懐が少し豊かになると長期の旅に出るという生活を繰り返していた私は、帰国し、次の就職先が決まるまでという気持ちで、あるレストランでバイトしていました。
そのときに出会った人たちが、今思い起こせば凄かったんです。
『トラットリア ビコローレ ヨコハマ』の佐藤護シェフ、『La Maison Courtine(クルティーヌ)』の善塔一幸シェフ、現在はシンガポールで自身の『Ristorante Takada』のほかプロデュース業でも活躍している高田昌弘シェフがいて、店長の知り合いということでよく来店していたのが、当時から『北島亭』のスーシェフを務めていたこの大石さんでした。
ちょっとだけ美味しいもの好きというレベルだった当時の私にとって、この人達の「本気」が衝撃的だったのは言うまでもありません。
垣間見たというくらいの期間でしたし、バイトでしかありませんでしたが、仕事である以上、必死にこの方々の味や料理に対する考え方を覚え込みました。
その後、私はいったん奥飛騨で半隠遁生活を経たあと、グルメサイトの仕事を得、今ではがっぷり食の世界と向き合っているわけですが、その原点には、やはりこの人たちの仕事があったと思い返すこともしばしば。
いろいろなお店を捉える際に、彼らの料理と比べてどうなのか、そもそも同じ尺度に乗せられるか、違うならどれくらい離れているのかなどを、無意識のうちにマッピングしていた、いや今もそのマッピングの中心点になっていることは変わっていないかもしれません。
そんな“師匠の1人”大石さんが独立したとなれば、行かないわけにはいきません。
・銀座駅から徒歩5分。営業はディナーのみ、メニューはおまかせコースのみ
銀座駅から徒歩5分程度。地下鉄で行くと、松屋銀座を抜けてすぐくらいのビルの2階に、お店はあります。
入店前にお店の外観を撮ろうと思ったのですが、溢れんばかりの開店祝いの花。上の写真でもごく一部で、2階の扉前ならず、歩道にも溢れていました。
彼の愛されキャラは飲食業界でもよく知られるところですが、ここまでとは!というのが見える化されてます。
それも、有名店・実力店ばかりで、ここに連なるお店やシェフの名前を見ていけば、どんなメディアの良店リストよりも、精度が高いんじゃないか?と思ってしまうくらい。
店内はカウンターのみの構成で全12席。
メニューは事前に聞いていたのですが、おまかせコース1本のみで、24,500円(税抜)。サービス料はなし。15皿前後を、ほぼアラミニッツで、とのこと。
原則的に2ヶ月に1回、コースの内容を変更していくそうです。
さて、食前にサービスで出してくれたシャンパーニュを皮切りに、大石劇場の開幕です。
・王道と新機軸が、旨さという軸に交差するコース前半
「大石劇場」とスルッと書いてしまいましたが、大石シェフのお喋り好きは『北島亭』のころから名物とも言えるものでした。
この日も、常連さん相手に「『北島亭』のときは、フロアでお客さんと話し倒しているところしか見られていないので、こいつ、ほんとは料理できないんじゃないかなんて思ってませんでした?」と自らネタにしているくらい。
そんなキャラクターを前面に押し出しながら、同時に調理も目の前で見せていくというのが、独立にあたっての新機軸となるのでしょう。
スタッフの元気の良さも含めて、寿司屋にでも行くくらいのつもりで行ったほうがいいかもしれません。
アミューズは、サラダ仕立ての毛ガニと桜チップで燻製にしたキャビアなどの「グジェール」。間に、アボカドのムースなどが挟まっているフィンガーフード。
料理人の方から言葉とおり手渡しで受け取るのも、コースの掴みとしては、ほっこりしていいですね。
「生ウニのコンソメゼリー寄せ」。北海道余市の塩水うにと、一番出汁のみ使ったコンソメゼリーで。
『北島亭』に行ったことのある方なら、知らない人はいないスペシャリテですが、カリフラワーの使い方などは変え、アレンジを加えています。
どちらも美味しいので、具体的にどこが違うか知りたい方は、ぜひ食べ比べてみてほしいです。
「マデラ酒でマリネしたボタンエビ」。中華の紹興酒漬け的なニュアンスですが、食材が違うので、しっかりフレンチの味になってます。
こういったところに、大石シェフならではの個性が出てくるのかな?とも思います。
トータル7時間くらい煮込んでいるという「スッポンのコンソメ」。
黒トリュフでも試したそうですが、味が強すぎたそうで、サマートリュフがふんだんに使われています。
このあたりで、完全に「フレンチ舌」になっていたのですが、さらに畳みかけてきます。
オードブルの盛り合わせは、ガラスケースに入れられて。
基本的には「皿の上に食べられないものは置かないこと」がポリシーのシェフですが、「これ、皿じゃないし(笑)」とご愛嬌でねじ伏せられるのが、このシェフの強みでしょうか。
いや、季節感を楽しんでもらうことも一つのテーマなのでしょう。
それはさておき、フランス料理、それも正統派を志向するシェフとしては、かなりの想いが詰まっているオードブルであることは一目瞭然です。
手前に「田舎風テリーヌ」。上に「黒いちじくとオーストリアのグリーンアスパラ」。二段構えになって、アスパラの下に隠れていますが、下に「うさぎのテリーヌとキャロットラペ」。
すべて一口サイズですが、このようなフランス伝統のオードブルは、コースの中に絶対に入れたかったんだろうなとも思えます。
フォアグラのテリーヌなどを最中に。栗やナッツなども入っています。
このあたりの見せ方は、彼のとっては新機軸に入るのでしょうか。
でも、それぞれのパーツ自体、そしてそれらのバランスのクオリティは高いので、斬新さよりやはり舌に神経が集まります。
シェフから「絶対に松茸より旨いから」という説明とともに給された「ポルチーニのフリット」。はい、その言葉通りです。
パン粉は、若干チーズが混ざってるヴィエノワーズにしているところなどで、欧州料理的なまろやかさが出ています。
柑橘は宮崎産の平兵衛酢(へべす)。これ、柑橘のエッセンスがギュッと濃厚に詰まった感じ。絞りすぎ注意です。
ここまでで8皿。
出てきた順序は前後しますが、前菜に合わせて見繕ってもらったブリュゴーニュ・アリゴテを飲み干します。
というか、料理に夢中でワインを飲み忘れていたくらいの充実度だったんですが。
そうこうしているうちに、羊が焼き上がりましたとプレゼンテーション。そう、やっぱり仔羊は出てくるのです。
先に紹介した「うにのコンソメゼリー寄せ」とともに、北島亭のスペシャリテだったメニュー。
いったいどんなことになっているかは、後半で。
(下に続きます)
・高級食材のオンパレードなコース後半
前ページに引き続き、『銀座 大石』オープン6日目のレポートです。
「愛知三河産うなぎの白焼き」。カウンター越しの調理スペースの奥には、DJブースのような炭火台が備え付けられているのですが、調理人の方も和食店で炭での火入れの研修してきたとか。
そのまま出したら、ほぼ懐石の味になるのでしょうが、発酵バターが使われたポテトピュレに、燻製にしたキャビアを混ぜたソースが添えられているところで、フレンチテイストに。
最初、リースリングと合わせていたのですが、今ひとつパンチが足りない感じだったので、ロゼを出してもらったら相性抜群でした。
そして、件の仔羊が遂に登場。
有名店から独立した料理人からは、よく聞く話ですが、修行した店の味をまったくそのままやっていたら独立した意味がない、けれども、来てくれるお客さんからは、ある程度それを求められているのも感じる――。
そんなジレンマのなかで、どう自分の料理を出していくかという一つの答えが、この皿にあるのかもしれません。
まずは手前の『仔羊の岩塩包み焼き』。使われている部位は、イチボあたりでしょうか。
塩はギリギリ、かなり妖艶なテイストで、ある意味で仔羊であることを忘れます。
ラックの部分はペルシャード(香草パン粉)で。
ラック独特の旨味は残しつつも、余計な脂は落ち、こちらも食べやすささえ感じます。
『北島亭』と大きな方向性が違うわけではないですが、落とし所は変えているイメージ。
通常のメディアであれば「評価が分かれる」と書くのでしょうが、単純な私の場合、どっちもアリというのが答えです。
もう少しガツンとして味を楽しみたいなら四谷の『北島亭』に行けば良いのですから。
と言いつつ、四谷の本家ではラムを食べきれずに、持ち帰らせてもらったことを考えると、食べ切れるということが、もっとも大きな違いだったりして。
口直しも『北島亭』で出されているスイカへのオマージュといったところでしょうか。
ただ、身の食感も残るザクッとスイカのジュースに、ライムのシャーベットが混ざり、ミントで味を整えているもの。
・名店から何を引き継ぎ、何を変えるのか
これは店のコンセプト、立ち位置によると思うのですが、自戒を込めて言うと、日本の飲食業界全体では自分らしさを出さなくちゃいけないという強迫観念が強くなりすぎているのかな?と感じることもあります。
貴重な文化であれば、技術の伝承はそれ自体で価値がありますし、個性偏重の環境の中では、逆にそっちのほうが相対的には個性的になることだってあります。
私自身ここだけはブレていないと思っているのですが、“独創性”のかたちだけなぞるよりは、よっぽど気持ちいいアウトプットになるケースのほうが多いのです。
メインの「仔羊の岩塩包み焼き」や前菜の「うにのコンソメゼリー寄せ」など、本家のエッセンスは残しつつ、自分なり、いや目の前のお客様に対応したアレンジを加えた料理を頬張っていると、そんなことを改めて思わせてくれたのが、この『銀座 大石』での料理だったと言えるかもしれません。
もう一つ、個人的に大石シェフが面白いと思っているのは、フランスの本場で実践を積んだ人ではないということ。
けれども、日本にあるフランスよりもフランスらしい料理を出す店に長く身を置いていたら、フランス人よりフランスらしいエスプリを持った料理を作れるようになっているというのは、現代の世界を考える中で、非常に面白い現象だと思っています。
☆ ☆
さて、話をコースに戻します。
冒頭で使った写真に写っているのは、最後のメインのこの肉。
「飛騨牛のランプ」。A5ランクの上の階級の飛び牛なのですが、赤身の代名詞的なランプにも関わらず、きれいな刺しが入っています。
「ちゃんと焼いた肉が美味しいと思うんですよね」というシェフの言葉とおり、炭火でしっかりめに火入れしたものがこれです。
食材の力もありますが、これは一つの到達点かなと思わせる出来。
ちなみに、仔羊を食べているあたりから、土鍋に火を入れているところが気になって仕方なかったのですが(カウンターキッチンの醍醐味ですね)、これでした。
「アワビの肝のリゾット」。すっぽんの出汁で炊いていて、見た目は土鍋ごはんですが、焦がした発酵バターで味を決めているので、しっかりフレンチの味です。
食ったぁーという満足感で気を抜いていると、目の前でデセールが用意され始めます。
焼き立てのタルトの上にメレンゲが置かれ、そこにプレーンの生クリームをかけられ……とデセールも目の前で作られていくのは、オープンキッチンの店でもめったに体験したことないですね。
そうして出来上がったのは、特性のモンブラン。
もう一つ添えられているのは、「マール(イタリアのグラッパ)のソルベ」。
アルコール分もかなり残っている、大人な味でした。
・まとめ
以上、2019年9月2日オープン、銀座のフレンチに新たな風を吹かせること必須の『銀座 大石』のご紹介でした。
この記事でも、できるだけ「美味しい」という言葉を使わずに書いてきましたが、まあ、率直に書けば、それぞれ美味しいんですわ。
ただ、それは当たり前のことではなく、シェフの料理への説明などからは、大小合わせて毎日相当な改善を重ねてきたことも伺えます。
オープンして6日目ですが、それがある程度かたちになっていることは、単純にすごいことだと思います。
今後、私自身の美味しさの基準はここに設定しようかとも思ったのですが、それじゃ食べるものがなくなるかという恐さも感じるので、フレンチの基準値はこの『銀座 大石』にする、くらいにしておきます。
『銀座 大石(GINZA OISHI)』店舗情報
営業時間:ディナー 18:00〜23:00
定休日:月曜日
電話番号:03-6278-8183
住所:東京都中央区銀座2丁目10−11 銀座マロニエ通り 銀座館2F
予約に関して
電話、あるいは「一休」「OMAKASE」などのweb予約から。
今後は2ヶ月先までの予約が取れるようなシステムになるようです。
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