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2022年度のゴ・エ・ミヨでは、神奈川の『鎌倉 北じま』、新潟の『里山十帖 − 早苗饗 −』とともにテロワール賞を受賞。
ローカル・ガストロノミーを代表するレストランの一つに仲間入りをした河口湖の『TOYOSHIMA』をレポートします。
平均予算:ランチ 5,000~7,000円、ディナー 10,000~15,000円/「ゴエミヨ 2022」3トック
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店の特徴
デスティネーション・レストランだとか、ローカル・ガストロノミーだとか、地産地消だとか、テロワールだとか。
いろいろな言い方はありますが、そういったカテゴリーのなかで今現在、もっとも注目を浴びるべきレストランの1つでは?
河口湖にあるこの『toyoshima』に関して、そんな噂を豊橋だとか清里だとかの方々から聞いて、「やった、また好きなタイプの店を見つけちゃったね!」という気分になっていたのですが。
山歩きは好きですが、富士山には登る気はないし、首都圏から比較的近いので、いつでも行けるやと思うと、かえって河口湖に行く機会が見つからず、うだうだしてしまいました。
そんなこんなのうちに、「1つなのでは?」なんていう疑問形ではなく、「です」と断言していい存在になっていました。
2022年度のゴ・エ・ミヨでは、神奈川の『鎌倉 北じま』、新潟の『里山十帖 − 早苗饗 −』とともにテロワール賞を受賞。
あらま、すでにトップレベルっていう認識じゃんと、重い腰を上げ、富士に向かったのです。
昼・夜ともにコースのみの展開
いつものごとく、思い付きの一人旅ですので、「1人でも大丈夫ですか?」と問い合わせると、「ランチならOK」とのこと。
昼も夜もおまかせのみで、ランチでは4,000円と7,000円のコースがあるそう。
で、ちょっと失敗したと後悔したのが、車で行ってしまったこと。
富士吉田に泊まっていたので、富士急で行けば1駅、河口湖駅からも徒歩5分のアクセスの良さなのですが、出がけにもたつきました。
つまり、店の魅力の一つであるはずの、山梨産の日本ワインとのペアリングはお預け。
ノンアルで乗り切りますが、ワインやカクテル系のノンアルのバリエーションはさほど多くなかったので、3パターン出ていたジンジャエールを飲みつくすことにします。
まずは、こちらから。
山椒ジンジャー
黒文字も入って、爽やかなテイストです。
アミューズ①
樹海に見立てたということで、手前は、猪のコロッケ。
きちんと苔も付いてます。
そして、奥はお米チップス。
サワークリームと自家製カラスミで。
アミューズ②
朝採のトウモロコシを使った2品。
アミューズと呼ぶのか前菜と呼ぶのは大した問題ではないと思いますが、お店の方が「もう一つ、アミュー的なものです」とおっしゃっていたので。
右側は、フリット。
猪肉を1年ほど味噌漬けにしたパンチェッタに、軽く自家製の昆布塩で味を決めていました。
そして、冷製スープ。
ほとんど、トウモロコシのみの味付けのようですが、凍らせてかき混ぜたりと食感を変えているところがポイントでしょう。
水もトウモロコシ畑と同じ水脈である、神社の湧水を使っているそう。
カプレーゼ
個人的に前半の山場だったのが、このカプレーゼ。
トマトは米麹と発酵させ、バジルの替わりにノビルを使っています。
その上で、ネクタリンと食用ほおずきで仕上げた逸品です。
見た目はカプレーゼですが、その置き換えの妙で、新しい感覚が生まれているな、と。
自家製パン
予約に合わせて焼くというパン。
モチモチのバター感が豊潤で、砂糖不使用。
予約すれば、パンの販売も行っているそう。
桃ジンジャー
夏の山梨と言えば、桃です!
サーモンガレット
地のもので魚介の前菜。
サーモンは松ぼっくりで燻製し、ガレットには春菊が練り込まれています。
野菜は自家菜園から、自家製の紫蘇塩を添えて。
椀物
続いては何が出てくるかと楽しみにしていたら、なんと椀?!
3日間熟成したハタを中心に、その骨からとっただし。
塩味は貝などから出るものだけを使い、調味料はまったく足していないそう。
フレンチではなく、かと言って和食とも違う、新・日本料理と言えばいいのかなというシンプルかつ独特な旨みでした。
パテアンクルート
パテアンクルートはパイ包みではなく、なんとカボチャ包み。
中のパテには、猪肉をメインに鹿肉や鴨肉がブレンドされているそう。
黄瓜、カブなどイノシシが好物の野菜を付け合わせに。
それ以上にカボチャは猪が好んで食べる野菜らしく、それらを合わせて料理に落とし込んだメニューですね。
ベリーのソースとキャベツのパウダーをアクセントに。
自家製パン
メインの肉料理を前にお代わりのパン。
添えられたオリーブオイルは、解散してしまったレミオロメンの元メンバーがつくっているそう。
口直し
山梨の名物クラフトビールである宇宙ビールを使ったグラニテ。
ビールらしい独特な苦みが心地よいです。
ラム・ジンジャー
肉料理
低温でじっくりと料理した鹿肉。
パイ包みではあるのでが、シェフによれば「重くしすぎたくないので、面積を小さく」とのこと。
パイはメッシュ状にし、その下を葉包みに。
赤ワインと発酵ベリーのソース。
付け合わせのセルバチコも、自家栽培ならではの野性味が利いていました。
デザート
八ヶ岳産のヨーグルトのアイスクリーム。
自家製ミントと、先ほどのオリーブオイルを添えて。
食後のハーブティーと小菓子
最後のお茶も変わっていました。
セレクトではなく、ハーブティー一択。
黒文字や白樺、松の葉などなど山の香りがぎっしり詰まったハーブティーです。
そこに添えられるのは、自家製はちみつ。
ここの豊島雅也シェフは、料理人であり、猟師であり、農家であり、さらに養蜂家だと聞きます。
猟や畑をやっているシェフはたまに見かけますが、蜂を飼っているシェフに会うのは初めてかもしれません。
そんな矜持が籠っているのかもしれませんが、どちらかという茶の湯の世界にも通じる禅のようなシンプルな〆でした。
個人的には唯一無二、近年最大の発見の一つ
はちみつを味わいながら、振り返ってみると、「これ、意外とすごいことをやっている店なんじゃないか」と気づきます。
食べているときは、自然と流れていったので、そのギャップも面白いと言えば面白いのですが。
ある側面では、日本ではこれまでに滅多に出会ったことのないタイプの料理でした。
料理に限らず、日本人は0→1のクリエイティブが苦手だという説は、よく耳にします。
一概に認めたくない考え方ではありますが、まあ、そういった面もあるのは確かでしょう。
実際、私がガストロノミーに興味を持ったときに、日本だけではなくアジア全体を周ることから始めたのは、美味しいという軸を少し外して捉えていくと、そのほうが面白いものに出会えたからです。
技術のクオリティは日本が抜きんでていたと思います。
けれども、クリエイティブという意味では、一部の店を除けば日本以外のアジア諸国のほうが面白い店が見つかったのです。
この『toyoshima』のコースを体験して、改めて気づいたのは、そこにはまず“置き換え”の感覚の違いがあったのかな?と。
長らくアジアのNo.1を走り続けていた『ガガン』などもそうです。
プラットホームというかテンプレというか、スペインの『エル・ブジ』などで身に付けた型を使いながらも、中身は大胆に置き換えてしまう面白さが、この10年のアジアのガストロノミーにはありました。
なので、スピリッツは師を受け継いでいながらも、新しい料理ができあがっていったのだと思います。
『ガガン』の場合はインド料理のコンテンツに変えてしまったわけですが、なので彼らは、0→1のクリエイティブをやっていたわけではなく、2→5くらいのことをやっていたのかもしれません。
それに比べて、多くの日本のガストロノミーでは、そういった大胆さは見られなかったと言っていいでしょう。
地産地消と言っても、地の物を使いましたということで、目指しているのは、ヨーロッパのあの名店の味。
素材のパーツを置き換えただけで、目標とする答えは変わっていません。
ディテールが変わったのなら、答えも置き換えてしまってもいいとも思うのですが、つまり、0→1どころか2→5でもなく、6→10くらいのことにこだわっているのがメインストリームだったと言えるかもしれません。
例えば、この日の「カプレーゼ」。
カプレーゼの型を使い、見た目はしていますが、カプレーゼかと言われれば、まったく別物だと思います。
けれど、美味しい。
目指すべき答えが置き換わってしまってもいいんだ?ということを、最近海外に行ってないから忘れてしまっていたなぁと、近くて遠かった河口湖で思い出させてもらえました。
この大胆さ、ぜひ多くの店に伝染していってもらいたいと、切に願います。
メニュー
【ランチ】
「おまかせコース」4,000/7,000円
【ディナー】
「おまかせコース」7,000/10,000円
*メニュー・料金はあくまで参考になります。季節や食材の入荷状況によって変わることを前提にご覧ください。
予約方法
ランチ・ディナー共に前日までに要予約。電話にて。
店の地図・アクセス
富士急行「河口湖駅」から、徒歩約5分。
『トヨシマ(TOYOSHIMA)』店舗情報
営業時間:ランチ 11:30〜13:30(L.O.) 、ディナー 18:30〜23:00(L.O.20:00)
※ランチ・ディナー共に前日までに要予約
定休日:日・月曜
電話番号:0555-75-0850
住所:〒401-0301 山梨県南都留郡富士河口湖町船津3681−2
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